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自転車(空気入れ)泥棒(10)…実際の話
さて、驕れる平家、あるいは太閤花見の斯くやを思わせるストーカー一味のバカ騒ぎぶりでございます。まったく…人様が汗して働く平日の真っ昼間から飲んだくれ、バカ騒ぎをしやがって!…と、云いたくもなるわたくし、三遊亭私ではございますが、しかし高座に私語をはさむ分けにもまいりません。ここらで小噺(もう大噺レベル?)の締めに入りたく存じますが…えー、しかしまだだいぶ先かな?ま、とにかく、冒頭に引き合いに出しましたイタリアのネオレアリズム映画の名作「自転車泥棒」内の主人公アントニオの顛末のごとき、まことに哀れな私野郎の現況ではございます。自身は自転車を盗まれ…い、いや、自転車空気入れを盗まれ、このあともし、きゃつらに自転車のタイヤの空気を抜かれるかあるいはパンクでもさせられれば、私は満足に勤めに出ることも覚束なくなります。なぜならこの団地は駅から離れた丹沢山麓の高台にあり、まして私は70を超えた老人ですから、そのような次第と相成る分けです。彼にしてみればこんな老人を、責め苛むことで世過ぎとしやがって、銭を得やがって!…と、こう云いたくなる分けですが、しかしこれもやはり高座に私語をはさむ分けにはまいりませんので、えー、戻りますが…えーそれで、これまで縷々申し述べた諸事情のために私野郎は警察に被害届を出す分けにも行かず、畢竟ただうなだれ、くやしさに唇を噛むばかりでございます。この景を称するに、まことにアントニオ同様、不条理を極めた、現今の世の中の姿と云う他はありません。
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