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講談1・お力(8)
自らの実存の様を読者にバーンとぶつけて、さあどうだ、笑うなら笑え、蔑むなら蔑め…とでも云っているかのようです。自らの苦しみを隠すことなく、また自分に誤魔化すことも最早せず、お力の人生を成り行きの彼方に昇華さえさせているように見えます。その辺りを、私が勝手に想像した作品中のお力の言葉でひとつ言い換えて見せましょうか。お力は「一端(いっぱし)のシャンとした町娘でいたい、出来ればいい人と夫婦になって堅い所帯を持ちたい」と、身は酌婦でありながら心中では未だそう云っているのです。然るに自分の廻りにはニタニタといやらしい笑い顔を貼りつけた酔客らが居て、手を伸ばして来ては身体のあちらこちらを触りまくり「さあ店の二階に行こう」と誘う現実がある。それが仕事だから致し方ありませんが、まあしかし、これではシャンとした町娘どころの話ではありませんね。「しかしそれでも…」とお力は自らに抗弁します。「もしかしたら形のいい、品のいいお客でも現れて、あたしの真の心の姿を理解してくれて、あたしを身受けしてくれるかも知れない」と。そんな儚い望みを頼りに酌婦としての毎日を過ごしますがお盆のある晩のこと…とここでようやく既掲載の「講談1・お力(3)」の下から6行目に帰ってまいりました。へへへ。いいすっか?こっからまた参りますよ。えー、それで…お盆とて、この世に戻って来ている霊にでも取り憑かれたものか、お座敷を放(ほ)ったらかして1人河岸の袂まで来たお力…さてここで一葉の原文を引きましょう。
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