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講談1・お力(9)
〝…行かれる物なら此まゝに唐天竺からてんぢくの果までも行つて仕舞たい、あゝ嫌だ嫌だ嫌だ、何うしたなら人の聲も聞えない物の音もしない、靜かな、靜かな、自分の心も何もぼうつとして物思ひのない處へ行かれるであらう、つまらぬ、くだらぬ、面白くない、情ない悲しい心細い中に、何時まで私は止められて居るのかしら、これが一生か、一生がこれか、あゝ嫌だ嫌だと道端の立木へ夢中に寄かゝつて暫時そこに立どまれば…〟
どうです、皆さん、この一葉の文章の名調子、そしてそれを読み上げる私の名調子。心に響いてまいりましょう?…え?何?そうでもない?…なんでですか。はい、じゃそこのお客さん。
客A「いやあ私(わたくし)君ね、儂(わしゃ)あ、そのお力さんと違って万事順風満帆じゃからね。仕事は引退して今は財テク三昧じゃ。米国債もNISAもすこぶる絶好調。次は円キャリートレードにでも手を出そうかと考えておるんじゃ。だからそのお力とやらの悲惨と鬱屈ぶりなど、高みからせせら笑いながら見聞きしている次第じゃよ。ワハハハ」
あー、そうすか。そりゃ結構でござんすね。どうも嫌なお客に聞いちゃったな…(小声で)何がNISA(ニイサ)だよ。NISA(ニイサ)なんてナニサだよ。まったくもう。えー、まあ、もういいや。それで、話を続けますが…
客B「おい、私(わたくし)野郎。俺の意見も聞けよ。いいか?そのお力なんてえのはな、自分の身分も素性も弁えない世間知らずの、柔な小娘だってえんだよ。そっちの旦那(客A)のような人が支配しているこの世の中なんだ。何が〝つまらぬ、くだらぬ、面白くない〟世の中だよ。一葉もお力もお前も自分の身分と氏・素性を弁えりゃいいんだ。万事金持ちの云う通りにしていりゃいいってことよ。そうすりゃ鬱屈も何もねえんだ。わかったな?」
※PS:ちょっとここで失礼。その円キャリーに付いて、ツイッター上で詠んだ私の拙歌がございます。ぜひご参照ください(下のURLをコピペしてみてください)
https://x.com/i6U3xYDHFkPR8Bz/status/1804735706226463119
https://x.com/i6U3xYDHFkPR8Bz/status/1804738491663671593
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