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 二月十四日、男も女も浮き立つバレンタインデー。 「はい、浩一(こういち)先生。これ俺からのチョコレート。Rホテルの100個限定品」  天使のような顔をニッコリと微笑ませると、山野和瀬(やまのかずせ)は綺麗にラッピングされたチョコレートを差し出してきた。  井川(いがわ)浩一は溜息をつくと、百八十センチの自分より十センチ以上低い和瀬を見下ろしつつ、口を開く。 「あのな、山野。バレンタインチョコレートの校内での受け渡しは禁止だし、それに」 「禁止でも、俺と先生の仲じゃん」  語尾にハートマークがついているような口調で言われて、浩一は少し慌てた。  数学準備室には他にも教師がいるのだ。変な誤解をされたら困る。 「山野、いつも言ってるだろ? 俺とおまえは担任教師と生徒。それ以上のなにものでもないから」 「先生ってば照れちゃってー」 「……山野、マジで怒るぞ」 「とにかく俺、一時間以上並んでそのチョコ買ったんだよ? 受け取ってくれなきゃぐれるから」  和瀬はチョコレートを浩一の手に握らせた。 「じゃ、先生。正門のところで待ってるから。一緒に帰ろうね」 「えっ? おい、山野!」  浩一は呼び止めたが、和瀬はヒラヒラと手を振って、数学準備室から出て行ってしまった。
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