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第一章 「将軍との出会い」
4月、新しい学生生活が始まる季節、私・近藤勇美は、昌平坂高校に入学した。
昌平坂高校は、かなり偏差値の高い進学校であり、入るのにはとても苦労したものだ。
となりには、私の幼馴染み、土方才蔵が並ぶ。彼とは幼稚園・小・中と同じところで、かなりお互い、気の知れた仲である。そして高校でも、一緒になれたわけだ。
才蔵が私に話かけてくる。
「勇美―、お互い無事入学できて良かったなあ~。改めて、よろしく頼むよ。」
「ええ、こちらこそよろしく。」
この年頃、男女であればけっこう隔たりがある場合が多いが、私と才蔵に限ってはそんな様相はない。
そんなわけで、昌平坂高校にて最初にあるのは、当然入学式だ。
学校長の話がやはりメインとなってくるが、あまりにも長すぎるので、ここはカット。
それで次に行われたのは、生徒会長の挨拶だ。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!生徒会長の、徳川義信です。本日はお日柄もよく、皆さんの入学にまたとない最高の一日であることでしょう。
本校は1790年から、実に200年以上続く、歴史と伝統のある学校です。
古くから学問の場として活躍し、今や日本有数の進学校となりつつあります。
そんな本校で学べるということは、皆さんの今後の人生においても、貴重な三年間となるに違いありません。
特に、我々生徒会は、日々生徒の皆さんが安心して生活できるよう、校内での問題の対処に従事しております。ぜひとも、我々生徒会の一員となり、共に活動してもらえることを、心より願っております。
それでは最後になりましたが、私は、江戸幕府再興会という同好会に所属しております。興味のある方はぜひ、私に声をかけてくださいね。
以上をもちまして、生徒会長徳川義信のあいさつとさせていただきます。」
江戸幕府再興会??
8割方まじめな話だったのに、最後の最後でとんでもないものぶっ込んできたぞこの人・・・
実際先生方も、生徒会長自身の同好会の宣伝をするなんてことは想定になかったようで、かなりきつめな感じで叱っていた。しかし彼は、素知らぬ顔で聞き流している・・・
私がジト目で生徒会長の方を見つめていると、後ろから才蔵が話かけてきた。
「あの生徒会長、ヤバそうだな・・・あんま関わらない方がよさそうだぜ。」
私は無言のまま、うなずく。
入学式が終わり、新入生はこれから毎日過ごすことになるクラスの教室に案内される。
校舎は生徒会長が言ってたように、伝統的な建物で、歴史の趣を感じられる見た目だ。しかし内面は所々修繕されていて、決して古びた教室には見えない。
そして才蔵とは、偶然にも同じクラス、しかもこれまた偶然で隣の席ですらあった。
お互い顔を見やって、思わず苦笑してしまう。
「フフ、ここまでくると、さすがに腐れ縁ね。」
「ハッ、ほんとにな。」
しばらく才蔵と雑談していると、教室のドアが開き、担任の先生が入ってくる。どうやら相当若い、新任か一年目くらいのように見えた。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。このクラス、1年A組の担任の、島津直慶です。本クラスではまず・・・」
しかしそこで、またしても教室のドアが開く。今度は誰だろうと思ったら・・・
「ホームルーム中失礼します。先ほどはどうも、生徒会長の徳川です。」
って、例の問題児生徒会長だったーッ!!
担任は、自分が喋っているところに突然邪魔が入って、嫌そうな顔。
しかし生徒会長はそんな担任の顔を気にも止めず、しばらくクラスをぐるりと見渡す。と同時に、ある生徒の名前を呼んだ。
「この中に、近藤勇美さんっています?」
それは、私の名前だった。
え?なんで?
私は思わず、生徒会長と目を合わせてしまった。彼はそれを見逃さない。
「君だね。」
「え、いや、その・・・」
違いますと、嘘はつけない。思わず黙ってしまう。
そんな私と生徒会長の間に才蔵が立ち塞がった!!
才蔵が不機嫌そうな声を出す。
「おいあんた、俺の勇美に何のようだよ。答えによっちゃあ一戦交えてもいいんだぜ?」
俺の勇美って/// 勘違いされるからやめてほしい。
でもまあ嬉しい。
そんな才蔵の殺気を食らっても、会長は何くわぬ顔をしたまま、続ける。
「近藤勇美さん、君は、旧新撰組局長・近藤勇の子孫だ。故に、我らの江戸幕府再興会に入るにふさわしい。」
な、何だって~⁉
たしかに、私の姓は近藤だが、まさかあの有名な、近藤勇と繋がっていたとは・・・
・・・いや、待て。この人の話、本当に信じていいのか?
あんな胡散臭い名前の団体に所属してるんだぜ?
才蔵も私と同じようなことを感じ取ったようで、会長に詰め寄る。
「適当なことほざいてんじゃねーぞッ‼第一、勇美が新撰組?の子孫だからって、何だってんだ⁉」
そこで初めて、会長は才蔵の方に目を見やった。
「土方・・・?ほう、これは何という巡り合わせか。君もまた、旧新撰組副長の、土方歳三の子孫じゃないか。これは素晴らしい、ぜひとも私達の同好会に入ってくれ。」
突然自分も、誰々の子孫だどうこう言われて、才蔵は困惑する。
おーい誰か助けてくれ~‼
私がそんなことを心の中で思っているとはつゆ知らず、会長は担任の方に確認を取る。
「こちらのお二方、お連れしてもよろしいでしょうか?」
担任は、困ったような表情で苦々しそうに言う。
「まあいいが・・・」
いや、良くない‼
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