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第9章「第二次禁門の変~中編~」
掃除くん達を降ろした後。
一時試衛館からは離脱し、だいふ離れたところで、車は停止した。
「それで、敵の本陣の場所は、検討ついてるんですか?」
「・・・・・・」
私の肝心な問いに、将軍は熟考する。
・・・・・・いや、分かってないんかい!
おいおい、このままだと、掃除くん達が延々攻められジリ貧だぞ⁉
焦る私を無視するように、将軍は島津先生に指示を出す。
「島津殿、車を京都御苑方角へ。」
「・・・・・・へいへい。」
先生は肩を竦めながら、車を加速させる。
将軍の語りが続く。
「試衛館から近からず遠からずの場所で、本陣を構えやすい所となれば、旧平安京内が真っ先に思い上がる。中でも御所は、敷地面積も広い、のみならず、もともと公家の住処であった。本陣を構えるにはうってつけの場所と言える。だが、しかし・・・・・・」
将軍が渋そうな顔をする。
老中も同調した。
「ええ。相手がそこまで安直に事を構えるかどうか・・・・・・」
「ああ、そこなんだよな。いくら帝とて、襲撃に備えていることは想像に固くない。御所の防御を強力に固めているか、それとも・・・・・・御所を囮に、別の場所へ退避しているか。
━━よし。」
あ、嫌な予感がする・・・・・・
「近藤と土方で、御所に乗り込み、迫ってくる敵を斬り捨てつつ、情報収集の任につけ。私と老中、島津殿は少し離れた場所に車を留め待機。帝の居場所が判明次第、そちらへ急行する。」
いや、いくらなんでも無茶だろ!
こっちには、何故か最強認定の秀光さんすらいないんだぞ⁉
先生止めてくれ‼
「・・・・・・やれやれ。」
おい、使いものにならんな‼
才蔵も、ため息をつく。
「ッたく、まあ、試衛館側の戦場に回されるよりは些かましか。おら勇美、さっさと終わらせて帰ろうぜ。」
才蔵、最近物分かりよくなってない?
でもまあ、ここでゴネても仕方ないのは事実である。
御所近郊・堺町門周辺に車が止まると、私と才蔵は外に出る。
私達が降りると、車はすぐさま走り去る。
・・・・・・ほんっとに!人使い荒いなあ‼
義信・容永・島津を残した車の中で、将軍が島津に指示を出す。
「島津殿、車をこちらの座標に。」
この言葉に、二人は驚く。
「上さま、対象の位置が分かったのですか⁉」
「おいおい嘘だろ・・・・・・」
将軍は頷く。
「先ほどは、敵にこちらが向っているのを悟られぬよう、近藤達にもこのことは黙っていた。
だが間違いない、帝はここにいる‼」
私と才蔵が、堺町門を潜る。
警備は少ない。兵力はほぼ全て、試衛館側の戦闘に回しているのだろう。
とはいえ、ちらほら薩長の兵━━以後倒幕派と記載(・・・?)もおり、わらわらとこちらへ向ってくる。
「そこの二人、何者だ⁉」
「ここをどこと心得る!!?帝に対し、非礼千万‼」
まったく、試衛館へ向った倒幕派とおんなじこと言ってるなあ。(なぜ私はそのことを知っている?)
こうなってはもう話は聞き入れられないだろう。やむを得ない。
私は刀を抜き、構える。
隣の才蔵も、拳を構える。
「勇美、さっさと片付けて、奥にいるやつを引きずり出すぞ。」
「ええ。・・・・・・将軍の思い通りに動くのは癪だけど。」
命は奪わない。
全員生かしたまま、無力化する‼
戦闘開始後、数分が経った。
薩長の兵士、なかなかに手強い!ちゃんと訓練を受けてる人間、そう一筋縄では倒されない。
それでもなんとか、確実に一人一人仕留めていく。
才蔵の方も苦戦している。才蔵は拳だ。いくら強いといえど、刀を持った相手数人を同時に相手するのは荷が重すぎるだろう。
私が頑張らなくては。
そう思い直したその時。
御所の中心・内裏に直接通ずる門━━建礼門が開いた。
紫宸殿より、二人の人物が出てくる。
「何やら、騒がしいでごわすな。」
「ああ。帝がおわすこの時分にて、侵入者とは慇懃無礼な。我ら自らの手で、始末してやろう。」
何やら強そうな奴らが来たぞ。
私も才蔵も、雑兵達も、動きを止める。
二人は私達の姿を認めて、名乗りを上げる。
「おいどんは、造士館1年あ組学級委員の、西郷高森でごわす。腕の立つ剣士とお見受けする。一騎打ちを申し込む。」
「同じく、明倫館1年壱組学級委員の、桂孝允だ。下賤なる侵入者よ、まずはその名を伺おうか。」
ほう、敵の将校級かな。
彼らなら、帝の居場所を聞き出せるかもしれない。
私と才蔵は、それぞれ名乗りを上げる。
「昌平坂高校1年A組、近藤勇美。」
「同じく、1年A組、土方才蔵だ。」
私達の名乗りを聞き、二人は神妙そうな顔をする。
「ほう・・・江戸幕府再興会、とは申さぬのだな。」
「ええ。無理矢理協力させられているだけなので。」
私がはっきり言い放つと、西郷さんは不憫な目をする。
「・・・・・・貴殿らも、苦労してるのでごわすな。」
なら協力してほしい━━ところだがそうはいかぬか。
両陣営名乗り合いが終わったので、桂さんは刀を、西郷さんは拳を構える。
なるほど、この感じだと、私が桂さんを、才蔵が西郷さんを相手するのが相性よさそうだな。
才蔵に目配せすると、私の意を理解して、西郷さんの方へ向った。
私も桂さんと対面し、刀を構える。
「それでは、始めましょう。」
「ああ、いざ尋常に勝負‼」
私と桂さんの刀が、高速で何度も交わる。
さすが、長州の実力者、雑兵達とは格が違う。
桂さんの剣術の流派は、神道無念流と呼ばれるらしい。一撃一撃が力強く、一発でも受けたら絶命は必至だ。
必然的に、私は防御に回ってしまう。
「なるほど、天然理心流か。見事だ。」
桂さんが、私の剣術に感嘆したようだ。
しかし、追撃の手は緩まない。一手一手、私を敗北に追いやるため、力がこもっている。
ふぇー、なんか、もう勝負を中断して、道を譲ってくれないだろうか。
それか、わずかでも反撃の隙が作れればいいのだが・・・・・・
才蔵と西郷の戦いは、共に拳と拳を交わす、まさしく武術の鑑となるような試合と化していた。
西郷の方が巨体であるため、力で才蔵を押しつぶそうと、体術を掛けてくる。才蔵は、取り付かれないよう、小回りをきかせ立ち回る。
「おんどれ、なかなかにやるでごわすな。」
「フ、俺だって、素手の相手にここまで苦戦することになるとは思わなかったぜ。」
西郷はスピードにかけてはそこまで優れていないため、技自体は当たる。しかし、耐久性がすさまじいため、決定打には到らない。
才蔵は、瞬時に、勇美と桂の戦況を見やる。やはりあちらも桂が優勢、このままでは勇美も自分もジリ貧なのは明らかだ。
勇美の方が勝利困難である以上、こっちを早め片付け、援護に向うのが急務だ。
それにはこの西郷を、なんとかしなくては・・・・・・
確実に一撃で仕留めるには、相手の懐に飛び込まざるを得ない。
かなり危険な賭けではあるが、才蔵は自身の力を信じた。
猪口才な小回りをやめ、西郷に取り込ませる。
西郷とて、わざと才蔵が回避しなかったことには感づいている。しかし、勝負を決めるのは今しかないと、才蔵の策略に乗る。
才蔵の身体を、全身でガッチリと固め、そして━━
「轟・神・掌‼」
力の限り押しつぶし、そのまま地面に叩きつける。
才蔵の背中は地面に強打し、損傷する。しかしッ‼
「秘拳・燕返‼」
これこそ才蔵の必殺技、全力の拳を、西郷の腹部に直撃させる。
そのまま西郷の身体を浮かせ、自身は離脱する。
「ふう、これでなんとか。」
かなり身体にダメージを受けたが、それもお構いなしに、勇美の援護に向おうとする。
ところが━━
「ほぉー、今のは凄まじかったでごわすな。」
西郷がむくりと立ち上がったのだ。
さすがの才蔵も驚愕する。
「そんな・・・・・・俺の全力の拳を⁉」
西郷はゆっくりと態勢を立て直し、再び構えた。
「なればおいどんも、本気を出すでごわす。」
そう言うと、手に持ったリモコンを機動させた。
たちまち。
御所北西部・薩摩藩邸方角より、高速で、重機が駆けつけた。
「サイゴー・アーマー。
これがおいどんの、最終兵器でごわすよ。
そしてッ!」
西郷がサイゴー・アーマーに飛び乗り━━そのまま一体化した。
「何だと⁉」
さすがに才蔵も、声を上げざるをえない。
次の瞬間。
西郷/サイゴー・アーマーは、光速で才蔵のゼロ距離まで接近し、そのまま拳を叩きつけ、才蔵の身体を十数メートルまで吹っ飛ばした。
才蔵は吐血し、内臓があたり一面に飛び散る。
「大・粉・砕☆大・粉・砕☆」
才蔵の骨は全身砕け散り、もはや微動だにもできない。
「くそぉー・・・」
西郷は、接近する。ここまで勝負が確定しても、まだ油断しない。
拳を振り上げ、才蔵の息の根を狙う。
「これで終わりでごわす。
大・粉・砕━━☆」
これにて、才蔵の命運は尽きた━━そう思われた。
「―ッ‼」
「な⁉」
なんと、才蔵が、サイゴー・アーマーの拳を受け止めたのだ。これにはさすがの西郷も、驚愕を禁じ得ない。
そしてその瞬間、西郷に隙が生まれた。
その一瞬を見逃さない。
「燕返 ━百極━‼」
先ほど必殺技を当てたのと同じ位置に、拳を食らわせ、そしてそのまま・・・・・・身体を貫いた!
「ぐお!」
さすがの西郷も、この攻撃には意識を保てない。
そして才蔵は、未だ貫いている拳を、上部に振り上げ━━心臓を斬撃した。
これにて西郷を、絶命に至らしたのであった。
「・・・・・・やれやれ、俺としたことが、ここまで手こずるとはな。」
私と桂さんの交戦は続く。
あっちの方で、才蔵が西郷さんを負かしたことを確認した。それは、桂さんも同様のようで、若干動きに焦りが見える。
今が、絶好の好機といえるだろう。
しかし、相手が脅威な存在であることは、依然として変わりはない。
━━なら私も、“奥義”を出すしかないか・・・・・・
私は慌てず、その時が来るのを待つ。
功を焦った桂さんが、ついに仕掛けてきた。
「奥義・無常斬‼」
神速の剣が迫る。
私は、それを紙一重で避ける。そこに大きな隙が、相手に生まれる。
「天然理心流極意━━浮鳥」
これぞ、天然理心流の神髄。いかなる時も臨機応変に対応し、勝機を掴むのだ。
そして!
「龍尾剣‼」
敵の攻撃を鍔で受け、そのまま刀先で相手の胴を切る。
「グハッ」
これにて、桂さんは倒伏した。
「桂、西郷、帝が・・・・・・な⁉」
奥の清涼殿から慌てて出てきた男が、しかし倒れている二人を見て言葉を失う。
あれ?この人、前の試衛館の時に会った、生徒会・副会長の人じゃね?たしか名前は、九条直只さん、だったっけ・・・・・・?
しばらく狼狽していた九条さんだったが、やがて私達の方をみて、面持ちを取り戻す。
「貴様らが、桂殿と西郷殿を・・・・・・徳川の下僕め、なんと忌々しい。」
それだけ言うと、九条さんは、そのまま奥へ走っていった。
え、さすがに引き際潔すぎない?
「どうする勇美、追うか?」
才蔵が聞いてくる。
うーん・・・
さっきの話だと、帝の身に何かがあったように見える。その上で、私達をここで押しとどめずにそのまま奥へ逃げたということは、そこに帝にいるとは考えにくい。先ほどの将軍の予測のこともある。
私はあることを察した。
「将軍が・・・・・・何か仕掛けたか。」
京都市伏見区。
そこに、日本のみならず世界でも注目を集める、神宮があった。
名を伏見稲荷大社。
帝こと天野孝明は、そことその背後の稲荷山に立て籠もり、戦況を窺っていた。
そこへ。
「おい、火の手が上がったぞ‼」
「fire、fire‼」
社の関係者や観光客から、悲鳴が上がる。
(何が起こったのだ?)
孝明は不審に思い、祠の外へ出る。
見るとそこは、火の海と化していた。
「な⁉」
帝は驚愕を禁じ得ない。
そこへ。
「やはりここでしたか、陛下。」
やってきたのは、義信と容永だった。
「征夷大将軍、越前守・・・・・・なぜここに⁉」
唖然とする孝明に、義信が説明をする。
「陛下、私達は雲隠れしたあなたの場所を、血眼になって探しました。門跡や離宮なども全て見て回り・・・・・・
そんな中、ふとあることを思い出したのです。天皇とは、天下の統治者であると同時に、もう一つ大きな役割があったと。それが、神道の代表者、祭祀の執行者であるということです。
神道の聖地、すなわち神社━━━しかし、そこは神への祈念には最良の場である一方で、防衛には不向きと言えます。隠れ潜むには城、もしくは・・・・・・山。
また、山は古代、これまた信仰の対象になったと言われますしね。さて、そんな「神社」と「山」の特徴を合わせ持つ場所が、ここ、伏見稲荷大社というわけです。
また、ここは逃げ込まれると厄介な場所ですが、登るのは決して困難ではありません。武官でないあなたでも、容易に山頂にたどり着けることでしょう。
まさに、鉄壁の城郭━━━火を付けられる以外では。
焼き討ちとは、古くから有効手段としてよく用いられます。今回も・・・・・・功を奏した。」
満足いくまで説明しきった義信は、ついに刀を抜いた。
「陛下、いや天野孝明!貴様の陰謀もここまでだ。その首、貰い受ける‼」
一方、追い詰められた孝明は、必死に頭を回して、どう逃れようか思案する。
(ここで撤退、は無理であろうな。火の手が上がっている以上、朕は後ろに下がれん。・・・なれば、ここでヤツを倒してこそ、活路を開けるというもの。たとえ勝てずとも、時間さえ稼げば、桂や西郷が駆けつけてくれるであろう━━━━━━)
それは叶わぬ望みであった。
しかしながら、孝明は考え抜いた末、刀を構えた。
「よかろう。朕自ら相手してやる。今度こそこの抗争に、ケリを付ける‼」
両陣営、トップ同士の決闘が、今始まろうとしていた。
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