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李鬼を見送り、劉鬼は家族が眠る静かな空間を眺める。不思議な心地であった。己が伴侶を迎え、父となる等考えた事もなかったのに。あっても其れは、只漠然と家が望む形になるだけだろうと、頭の隅に置いて居ただけで。確かに、流れはそうであった。李鬼が迎える様に命じた鬼と婚姻を交わして、子を成した。けれど其れは、とても大きく重くて大切なものを己へ教えてくれた。
「生まれて来て良かった……」
無意識に、初めて感じる素直な思いが声に出た程。その時。
「ん……」
静かな部屋には、其の小さな声もはっきり耳へ届いた。其れは、密鬼の声。劉鬼は、逸る思いを抑え静かに寝台へ歩み寄る。辿り着いた其処に、瞼を開いた密鬼が半身を起こして。
「御早う御座います、旦那様」
あどけなく可愛らしい微笑み。愛おしい声で己を呼んだから。
「密鬼……っ」
劉鬼は、密鬼を抱き締めた。もう、何れ程懐かしい感覚か。こうして、只愛おしさのままに此の身を抱き締められたのは。強く締まるばかりの劉鬼の腕に、密鬼が苦笑いを。
「旦那様、苦しいです……」
「そうか」
そう答えるも、腕の力は弱まらず。密鬼は、少し困りながらも其の胸元へ顔を埋めると。
「有り難う……強くて元気な、私達の子を生んでくれて」
其の言葉に、嬉しさと誇らしさに密鬼の視界が滲む。僅かに緩んだ劉鬼の腕から、其の顔を見上げる密鬼。
「だって、一番最初に御約束しましたから」
「一番、最初……」
呟き記憶を辿った劉鬼の脳裏に、祝言の日が思い起こされた。其れは、密鬼が己の元へ婿入りにやって来た日。家族と引き離され、不安もあるだろう中明るくそう告げて笑顔を見せてくれた日を。
「旦那様とした、初めての御約束だったから……何があっても守りたかった。旦那様の御子を、絶体産みたかったんです」
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