やんごとなき事情故。

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 無意識か、名簿に記載された出席番号の位置に目を向けてしまう劉鬼。其処に見えた、密鬼の姿。他の鬼達と同様に、何やら突然言葉を止めた劉鬼を不思議そうに見て居る。視線が、一瞬合ってしまった様な。我に返って咳払いで誤魔化し。 「失礼。見る資料を間違えた。気を取り直し、本日皆へ語るのは――」  思わぬ巡り合わせへ僅かな驚きがあった劉鬼だが、場の空気を直ぐに戻す方向へ。無事講習も終え、劉鬼は其のまま己の持ち場へと身を移した。  重厚な扉の前にて、見張りの鬼が劉鬼へ一礼。 「――御疲れ様に御座いました」 「ああ。職務の続きに掛かる」 「宜しくおねがい致します」  見張りは、再び一礼の後扉を開く。部屋へと入った劉鬼は、疲労の溜め息と共に執務机へ講習の資料を軽く放り投げた。 「今年の新入りって……かなり年が開くんだが……若い方がって事か」  思わず出た独り言。どうも、婚約者殿との年の開きが引っ掛かった様子。劉鬼は、先程一瞬だけ目に入った密鬼を思い起こす。雰囲気も、つい最近迄学生をして居ただろうあどけなさが強く見えた。鬼の世界にも一応婚姻の縛りがあり、子を成しても生死の不安が無い肉体の成長が見えた頃合い。其れは、獄卒として地獄で働く為の学舎を卒業した年に定められて居る。鬼沙羅魏本家の現状を考えると、やはり若い鬼が良いのだろう。しかし、一つ気になるのが。 「鬼島……何処かで聞いたが、上級鬼族では無い筈……然程力も感じなかった様な……」  独りごちるは、密鬼の婚約者としての印象。てっきり、由津鬼と同階級辺りの鬼が宛がわれたと思って居たもので。只、鬼島と言う家は薄い記憶にある家だ。 「見合い迄に、少し調べて置くか……――」  多少の疑問はあるが、兄と父、重鎮達で決定した事だ。己の知り得ぬ事実があるのだろうがと。
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