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一方。知らぬ処で、知らぬ内に纏まり勝手に進んだ話。其れを、新入り研修より帰宅した密鬼も遂に知らされる事に。しかも、其の御相手が本日初めて顔を見ただけの劉鬼と言うのだから。
「――いや、もう少し捻ってよ。何で俺と鬼沙羅魏様がそんな話になるのか……」
帰宅早々、揃って神妙に話を持ち掛けた父母へ、密鬼は苦笑いで受け流した。余りにも現実離れし過ぎて、頭に入って来ないと言うのもあるだろう。お茶目な父母の悪戯かと。処が。
「其れが、本当なんだって!俺も今こうして話してるけど、違和感が物凄いんだぞっ!今朝お前が研修へ向かった後、家の前に物々しい一行が揃ってやって来て……!」
父となる男の鬼が、前のめりに強く訴える。更に。
「そ、そうなんだよ……僕もさ、眩暈起こしそうになって……き、鬼沙羅魏の現当主様が、頭を、さ、下げて……っ」
母なる男の鬼も、震える声で密鬼へと訴える。此の両親の様子に密鬼は、恐怖にも似た動悸を感じ出す。
「え……じゃ、じゃあ、何でうちなのさ?うちは、上級鬼族に知り合いすら……」
密鬼の突っ込みへ、父である鬼伊太(キイタ)が一瞬言葉を詰まらせるも。
「其の……黙ってたんだけど……実はうち、元上級鬼族に属してたんだよ……」
寝耳に水の父の打ち明けに、密鬼は目を見張り固まる。
「え、は……何其れ?!」
息子が驚くのも無理は無い。鬼伊太自身も、そんな事普段から忘れて居る位で。言い淀む鬼伊太を、母である流鬼(ルキ)が心配そうに其の横顔を見詰める。
「こっからは、家の恥になるが……――」
そう切り出し、鬼島の事実を語り出した鬼伊太。過去、鬼島家は上級鬼族に列し十鬼族とも並ぶ程力の強い家であったらしい。しかし、ある時の当主が優秀であり過ぎた故に変わり者で、人の世への進出を試みたのだ。日々溢れる程に地獄へ放り込まれる亡者。此の元となる人は、如何なる思考で生きて居るのか。其れを鬼も知る事が、地獄にも必要なのではと。
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