やんごとなき事情故。

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 前衛的過ぎた思想。だが、其れは禁忌。鬼と人は、地獄以外で関わってはならぬとの厳格な規律がある。にも関わらず、鬼島本家の先祖は、人の世へ出る術を見付けてしまった。其れを皮切りに、幾つかの家が人の世へ出る罪を犯す事態へ。鬼島本家は勿論、分家も連帯責任として下級鬼族へと地位を落とされたのだと。 「――まぁ、色々事情があってな……最近じゃ、漸くそんな話も隅っこに追いやられたってのに……鬼沙羅魏様へ、うちの事が知られてしまったみたいで……」  鬼伊太は、息子へ生涯語るつもりのなかった話を打ち明ける事態へ、悲哀の溜め息をひとつ。密鬼は、そんな事情を聞かされてもやはり何故鬼沙羅魏家がと。 「わ、分からないよ……そもそも其れさ、うちが大罪犯した、素行良くない家って話だろう?尚更鬼沙羅魏様が俺を婿にって、可笑しいじゃないか……っ」  話の流れに違和感しか無いと指摘するも、鬼伊太は力無く首を横へ振る。 「次の当主に、強い力の因子を受け継ぐ鬼が欲しい……其れが、彼方の御言葉だ」  肩をも落とした鬼伊太が、密鬼の瞳を見れずにそう沈んだ声で答えを返した。続き。 「俺達には分からないが、御当主様には分かるんだと……お前が、其の因子を持ってるって。どうも、俺達の知らない処で色々調べられたんだろうな」  声は静かだが、鬼伊太の手は震える拳に変わって居た。其れを見詰める流鬼も、堪らず肩を震えさせて。両親も当の密鬼も、十鬼族からの婚約話を喜ばしい等と思って居ない。蓋を開けて見れば、密鬼其のものに興味がある訳でも何でも無い。上流階級の思考は分からぬが、酷く見下げてくたもの。まるで、品物でも仕入れる様な。 「な、何だよ、其れ……子を生む為だけに、俺が……?」  何と莫迦にした話だろうか。鬼島家も密鬼自身もどうでも良い、其の中に引き継がれた鬼の力だけを持って来いと。
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