やんごとなき事情故。

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「密鬼……俺は此の通り、鬼島の血統ありながら特別強い力も無いし、稼ぎも並みだ。曽て栄えて居たと云え其の家や血の誇りも、何も知らない……けどな、俺はお前の親父だ。お前が不幸になる結婚を、賛成なんて出来ない」  鬼伊太の言葉へ、流鬼も顔を上げて真っ直ぐ密鬼を見詰める。 「密鬼。僕もだ。お前は、僕が身に宿して生んだ子だ……お前を守る為なら、何でもやってやるさ」 「父さん、母さん……」  鼻を啜る密鬼へ、鬼伊太が一通の書簡を差し出した。其れは、鬼沙羅魏家より密鬼へ宛てられたもの。 「近く、見合いだと言われた。此処で、お前の意思を鬼沙羅魏様へ告げれば良い……うちより上の家は沢山あるんだからな。話次第で、彼方も思い直してくれるかも知れない」 「うん。有り難う……――」  父母の後押しに、密鬼の中に少し勇気が湧いたのだった。書簡には、見合いの日と場所。其れは、鬼沙羅魏本家。迎えを寄越すとの事で、密鬼のみが向かう様にと。  其の見合いの日。密鬼の家の前には、立派な火車が迎えにやって来た。地獄広しと言えど、こうも華やかに飾られた火車等十鬼族以外では見られない。ご近所さんも、何事かと物陰から様子を伺う姿が。息を飲む密鬼は、従者へと促され震えながらも乗り込んだ。辿り着いた敵地――基。婚約者様であり上司の御自宅。其れは、見上げる程立派な門が先ず迎えてくれた。其処を潜ると、此処は何処だろうかと言う程広い庭が出迎える。何と立派な御屋敷、己の自宅が此の敷地に幾つおさまるかと下らない余所事を思いつつ。  密鬼は、数名の鬼の案内で屋敷内へと通された。多くの召し使いとして使える鬼達が、忙しく何かに動いて居る。が、皆立ち止まり、密鬼へ恭しい一礼を欠かさず通り過ぎて。其の都度、雰囲気に圧された密鬼も頭を下げて。漸く奥の部屋へと辿り着いた頃、ほぼ頭を下げっぱなしであった密鬼は、よく分からない疲労を感じて居た程。
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