やんごとなき事情故。

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「密鬼様。此方にて劉鬼様が御待ちです。どうぞ――」  開かれた襖の向こう。息を飲み、一歩足を踏み入れる。直後、早々に閉じられた襖。其の静かな音へも、密鬼は肩を跳ねてしまう程の緊張。そして、部屋の奥へ視線を映すと佇むは。 「君が、鬼島密鬼だな」  聞こえた声。出で立ちも、つい先日遠目に見たまま。袖の長い袍を纏い、幞頭へ髪をおさめた鬼――劉鬼――。密鬼は、取り敢えず良好な流れで話をと勢いを付け深く頭を下げた。 「は、はい……!は、初めまして……っ」  厳密にいうならば初めましてではないが、一先ず無難に。が、劉鬼の方は頭を下げた密鬼を見詰め、瞳を光らせる一瞬があった。 「確かに何かを感じるが、眠って居ると言うか……」  何やら呟く様な声。聞き取れなかった密鬼は、恐る恐る顔を上げて。 「え……あの……?」  密鬼の反応へ、劉鬼が咳払いと共に向かい合い置かれた椅子の片方へ促す。 「いや、失礼。腰を下ろして楽に」  密鬼は、深い一礼の後で静かに腰を下ろした。続き劉鬼も。向かい合い、直ぐ。 「申し遅れた。私が鬼沙羅魏家現当主の弟、鬼沙羅魏劉鬼だ……君との婚姻を願いたい。了承頂けるか」  早速の求婚の言葉から入った劉鬼へ、密鬼も全身へ力を込めて声を上げんと。 「あの……っ!俺なんかが、鬼沙羅魏様の家に行ったって、何も出来ませんっ……うちは、代々こうして底辺層で生きて居りまして……俺以外に相応しい家の御方が――」 「我等鬼は肉体と力の交わりで子を成す。家により考え方は異なるが、我等一族はより強い力を持つ鬼を歴代当主が迎え入れる事で、家と地位を守って来た。其処を叶えるに、家に関しては不問。只単に、位の高い家には力の強い鬼が生まれやすいと言う結果から、上級鬼族が迎えられて居たに過ぎん」
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