やんごとなき事情故。

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「ぼ、僕との間に、強い子が生まれなければ……其の鬼との子が強い力を持ってる可能性だってあるんですよ……!」 「先程も言ったが、先に続く力の覚醒を優先する。此方へも色々と事情があるんだ……本家の血を継ぐ子は、私と君の力を持つ者以外無い」  難なくはね除ける劉鬼。と、追い詰められる密鬼だが。 「ご、御当主は?貴方は、弟様と伺いました、けど……っ」  そうなのだ。よくよく考えて、何故当主ではなく弟がこうも結婚を強く望むのかと。  けれど、其の理由も劉鬼から語られる。 「兄の伴侶なる義兄は、子を孕めぬ身を持つ事が分かった。此の結婚は、其れ故の事でもある」  密鬼は、其の言葉へ愕然とする。兄夫夫の代わりに、子作りを手伝えと。此の家の都合、便利屋としての求婚。清々しい程に見下され、脱力感に拳の力も抜けて項垂れてしまう密鬼。 「僕が、御断りとかする、のは……」  顔も上げず訊ねる声に力は無い。俯いた顔の表情も、何処か虚ろで。 「可能と言えば可能だ。だが、我が一族との縁談を拒んだ結果は地獄で広く騒がれるだろう。其の年なら、其れがどういう事か分かる筈だ。もう消え失せた鬼島家の過去が暴かれ、蒸し返されるやも知れん。そう言った事実のある家が、うちとの婚約を破棄したと。双方に益は無く、面倒と苦汁だけが残る」  突き付けられる二者択一、其の一方への答え。密鬼は、脱力して居た体に力が入った。父母の顔が浮かんで青ざめる。そんな事になれば、此の地獄でどう生きるのだと。後ろ指を指され、獄卒として働く父も職場でどんな扱いを受けるか。巡り巡って考えれば、此の劉鬼は父の上司とも言える存在。此処で、密鬼は父母の強い瞳を思い出す。そう、父母は密鬼の為に、全てを受け入れる覚悟でああ言ったのだと。
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