やんごとなき事情故。

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 俯いた密鬼の視界が滲む。父母の笑顔が己の選択により、奪われるかも知れないとの不安も交差して。 「ぼ、僕が、鬼沙羅魏様と結婚する、なら……?」  肩を震わせ、声も震わせ密鬼が口にしたもう一つの選択肢。劉鬼の答えは。 「双方の益となる。此方は鬼島の血と力を得る事が出来、君の一族は鬼沙羅魏の身内となる。当然、此の結婚に相応の対価を約束する。必ずだ」  息を飲む密鬼は、最後の問いを。 「でも……僕も、お、お兄様方の様な結果になる可能性、とかも……」  縛られ、挙げ句捨てられる未來。更に、鬼島家の内情も知られてしまって居る不安。此れに、劉鬼は少し考え。 「義兄の状況は極希なものだ。申し訳無いが、先日君の能力身体検査に預かった血から既に検査を行わせて貰った……問題無いとの結果が出て居る。只、子作りは互いの相性もある……其の際の離縁も此方の都合になろうから、其の場合、君と鬼島家への保証や支援は鬼沙羅魏が惜しまない。君と御両親の前で、婚儀の前に十王様へ誓いも立てよう。文句有るまい」  十王の前で。其れは、最も重い契約となる。しかも、婚儀の前にと。其れ程に、鬼沙羅魏は鬼島の血を望むのか。もしかしたら、都合に振り回す鬼島家へ僅かでも気遣いがあるのやも。ならば、密鬼の選択肢が一つに変わろうとする。父母は、密鬼の為に、密鬼の笑顔の為に大きな覚悟をしてくれた。密鬼も其れは同じ。密鬼は、そんな両親が大好きだから。絶対に守りたいから。 「よ……宜しく、御願い、致します……っ――」  密鬼が深く頭を下げて震える声で出した言葉の後、頬を伝う雫が地に落ちたのだった。
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