地獄の沙汰は鬼次第。

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 まだ表情へ力の無い密鬼だが、開いた瞼と同時に我が子の安否を問うたのだ。そんな声を聞いた劉鬼は、涙を溢れさせる。密鬼の手を、確りと両の手で包む様に握って。 「ああ……ああ、密鬼!密鬼……っ、有り難う!……聞こえるか?弦鬼と勇鬼の声が……とても力強い声が……っ」  掠れ、途切れる劉鬼の言葉。密鬼は、まだ何処か現実ではない感覚が入り交じって居た。けれど、其の耳へも聞こえる我が子達の元気な泣き声と強い力の気配。密鬼の瞳にも、安堵の涙が溢れた。 「本当だ……強くて、元気な、声……良かった……」  そう言うと、再び瞼を閉じた密鬼。劉鬼は、再び不安に襲われる。 「密鬼……っ!?」  しかし、鬼里山が即座に。 「劉鬼様、どうか御安心を。覚醒した核の回復の為、深い眠りに就かれただけです……しかし、何て御方でしょうか。正に前代未聞……私共が学んだ医術書の何処にも無い例です」  感慨深げにそう話す鬼里山。一体何が起きたのか、まだ理解が追い付かない。知識と理のみでは説明出来ぬ現場へ、初めて立ち会ったのだから無理も無いだろう。しかし、鬼里山のみにあらず、現場に居る全てが感じて居た。此の奇跡をもたらしたのは、得体の知れない大きな力だと。  そんな鬼里山へ。 「密鬼は、地獄の為に一生懸命、前だけを見て生きて居るからだろう」  劉鬼が、静かにそう話しながら密鬼のあどけない寝顔を見詰めて微笑む。密鬼の生き方こそ、鬼島家が最も重んじて来た家訓なのだろう。其れを重んじる余りに、禁忌を犯した者も居た。けれど其れでも、其の家訓こそ鬼島家の真髄。其れを本能で重んじた子孫。 「鬼島家の先祖全員が、密鬼を認めたんだ――」  劉鬼の出した結論へ鬼里山は一瞬目を丸くさせるが、密鬼の無邪気な寝顔を見ると何故か納得してしまう。そんな背後では、漸く泣き止み眠りに就いた双子の小鬼も、母と同じく微睡みの中であった。
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