地獄の沙汰は鬼次第。

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 斯くして。十鬼族屈指の御家、鬼沙羅魏家運命の日は、集う鬼達を泣かせ笑わせ大変忙しい日となった。其の日職場にて、弦鬼と勇鬼が無事誕生したとの吉報を伝えられた李鬼。勿論、心配して居た密鬼の無事も。李鬼は其の足で、五道天輪王の元へ我が家に起きた事を報告に。そして、五道天輪王が鬼沙羅魏家に与えられた試練へ、とても心を砕いて下さった事。劉鬼を呼び、出生届けを先に授けて下さった事を知って居たからこそ。偉大にして慈悲深い上司五道天輪王へ、此の喜びと感謝を伝えた李鬼。其の報告を耳にした五道天輪王は、何とも穏やかで優しい表情を御見せになられた。一瞬見せた其れは、地獄では見せる事の無い阿弥陀如来の御顔で。驚く李鬼であったが、直ぐに厳格な御顔へと戻られた五道天輪王。鬼沙羅魏家による、此れよりの飛躍を大いに期待して居ると強く熱い思いを告げられたのであった。  李鬼は、其の日かなりの無理をして早めの帰宅。出迎えた由津鬼と共に、直ぐに密鬼と甥っ子達の部屋へ。 「――御帰りなさいませ、兄上」  密鬼の部屋の扉を開けた劉鬼が、李鬼を出迎え頭を下げる。其の返事もそこそこに、部屋へと入った李鬼が奥の寝台へ視線を向けながら。 「密鬼と、子等の状態は?」  静かにそう問うと、劉鬼は頭を下げる様に頷く仕草を見せる。 「鬼羅へ伝えた様に、皆現在問題無く無事です。密鬼も、完全な覚醒を遂げました……只、かなりの疲労がある様で、深く眠ったままですが」  劉鬼も、眠る我が子と密鬼を気遣い静かにそう答えた。すると、李鬼は俯き片手で顔を覆って。 「そうか……そう、か……っ」  劉鬼は、頬へ伝う兄の涙に気が付く。 「兄上……」  涙を軽く拭うと、李鬼は顔を上げた。 「済まない……其れを聞いて、今漸く安心出来た……良かった、皆無事なんだな……済まない、何もしてやれず……」
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