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李鬼も、己の中にある葛藤をずっと抱えて居たのだ。家の為に、そう教えられ育てられて来た。であるのに、由津鬼を愛し由津鬼だけを側へ置きたいと望んでしまった事。密鬼を鬼沙羅魏家へ迎える様、劉鬼へ命じた事。其の密鬼が、命を懸けた出産へ臨まねばならなくなった事。挙げ句、甥っ子等の命も危うくなった事。全て、全て己が招いた事で。多くを巻き込み、苦悩を与えてしまったと。由津鬼は、そんな李鬼へ身を寄せ震える拳を握り締める。由津鬼も知って居た。李鬼が胸の奥に押し込んだ苦悩を、己にさえも口にしなかった事を。
だが、そんな李鬼の言葉へ劉鬼も肩を震わせ深く頭を下げる。
「何もしてない等と止めて下さい、兄上……兄上が導いてくれた全てが、鬼沙羅魏家を変えたんです。兄上が決断されたから、今こうなったんです……密鬼と子供達に出会えたのは、兄上の御陰なんです」
其れは、劉鬼の中にある強い思い。李鬼は、幼い頃より心眼を持って居た。其れは、正に家を導く申し子に相応しき力。だからこそ、劉鬼は李鬼を疑った事等無い。見上げ、背を追った兄が今を与えてくれたのだから。
「劉鬼……」
「有り難う御座いました」
尚も頭を下げる劉鬼の身を起こしてやった李鬼は、劉鬼を真っ直ぐ見詰めて。
「お前が弟で良かった。お前以外居なかった。お前だから、全てを託せた……有り難う」
掠れながらも贈られた兄からの労いの言葉へ、劉鬼は言葉は紡げずも兄へ再び頭を下げ答えて。
李鬼は、案内された小さな寝台へ並んで眠る甥っ子等を眺める。寝惚けて居るのか、時折愛らしい仕草を見せる姿に表情は和むばかりで。しかし、触れたい気持ちを抑え本日は部屋を去る事にした李鬼。母なる密鬼がまだ子を抱いて居ないと言うのだから、己が触れる訳にはいかないと。其れに密鬼が目覚めたらば、先ず感謝を述べたいと劉鬼へ告げて由津鬼と共に部屋を後にしたのだった。
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