やんごとなき事情故。

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 鬼の仕事とは様々。そんな中、上級鬼族の鬼沙羅魏家出身ともなると各部署にて管理職が常。当主は代々五道天輪王の補佐を任命されるが、其れ以外の者も又重要な役職を与えられる。  地獄の一角。其処は、最も重い罪を犯した者が収監される地獄の最下層、阿鼻(あび)地獄又無間(むけん)地獄とも。其処に存在する獄卒の待機所。其の一室へ入る事を許された鬼が、重い扉が開かれると共に深い一礼を見せて。 「――劉鬼(リュウキ)様。本日は、必ず定時に終業をお願い致します。李鬼(リキ)様より大切な御報告がとの事で」  劉鬼と呼ばれた鬼は、机上の書類より其の声の方へ顔を向けて見る。鋭くも精悍な美しさ漂う、上衣へ袖の長い袍を纏う装束の鬼。人で例えるならば、元服は其れなりに過ぎ暫くと言う所か。長く伸びる黒髪は、幞頭(ぼくとう)の中へおさめられて居る。因みに鬼の象徴ともなる角だが、憤怒の感情や力を使う際以外等は形を表す事は無い。 「兄上が?しかし、明日は新入り獄卒鬼の指導講習の担当だ。色々と最終確認をしておきたいのだが……」  突然そんな事を言われてもと、静かな声ながら二つ返事は出来ぬと。家より使いに来た其の鬼も、顔を上げず申し訳無さげに。 「は……申し訳御座いません。重要な御報告がとの事でして……どうか、お願い致します」  其の強い依頼へ、劉鬼は暫し悩むも溜め息を一つ。 「お前が其処迄言うなら、余程大きな事だろう……分かった。当日で間に合わそう」 「申し訳御座いません。宜しくお願い致します――」  劉鬼は、使いへ告げた通り其の日は早くに切り上げ住まう宮へと帰宅。其れは、瘴気漂う地獄とは裏腹に、明るい朱を基調とした美しい造りのもの。瓦葺きの屋根は、光射さぬ地獄で自ら耀きを放つ様。礎石には朱色に染まる柱が更に華麗に魅せて。  そんな屋敷内を足早に進む劉鬼へ、使える多くの鬼達が出迎えた。が、其れも忙しく動く劉鬼には視界の隅。成るべく早々に済ませたく、着替えもせずに当主なる兄の部屋へ一直線。宮内の、広く長い廊下へ只足を進めて。
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