やんごとなき事情故。

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 兄の部屋の前へ辿り着くと、其の気配に迎え入れるが如く両側へ開かれる。中に居た兄、李鬼(リキ)が、硬い表情にて出迎えた。そんな李鬼も、厳格な瞳が印象的な美しい面立ち。劉鬼と同じく上位へ袖の長い袍を纏う装束に、髪は劉鬼と同じく幞頭へ。 「――劉鬼。済まなかった……実は、少々重い話なのだ」  扉が開かれて直ぐ。こんな珍しい出迎えに、流石に劉鬼も少々何事かと一抹の不安が過った。 「どうかなさいましたか」  李鬼は、憂える瞳で取り敢えずと、部屋の奥へ招く。そして、並ぶ茵へと促した。腰を下ろした双方。李鬼が、重い口を開く。 「実は、由津鬼(ユヅキ)の事についてだ」  由津鬼とは、李鬼が迎えた伴侶となる男の鬼。生家は代々力の強い鬼を排出する上級鬼族で、麗しい美貌に加え優しく慎ましやかな性質と正に令息。我が家へも兄にも相応しい伴侶だと、劉鬼も納得の鬼だ。  其の由津鬼が、今回の事情に関係して居ると。 「義兄上の……何か、ありましたか……?」  気遣いつつも先を促す劉鬼へ、李鬼が深い息と共に頷いた。 「お前も知る様に、婚儀より時が流れたが……手は尽くすも、未だ私達の間に子は誕生しない。其処で私と由津鬼の体を調べた処、由津鬼の体は強大な力を取り込めても、其れを無事育む事が困難な体らしい……」  李鬼より語られた事実に、劉鬼は思わず声を忘れてしまう。我が家へ正式に招かれた当主の婿が、元より子を産めぬ身とは一大事だ。 「な、そんな事が……あの、義兄上は今……?」  動揺の中、何とか義兄への気遣いの言葉を選べた劉鬼。其の眼差しより、李鬼が顔を背ける。 「診断を受けた由津鬼は、離縁を私へ申し出て来たのだ。こうなったらば本来、私は由津鬼との離縁を進めねばならぬだろう」
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