やんごとなき事情故。

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 李鬼の話に、劉鬼が神妙に言葉を探す。兄は何か迷いあり、己へ此の話を持ち掛けたのだろうと受け止めて。確かに由津鬼は劉鬼にとって、優秀な経歴や性質含め尊敬する義兄でもある。しかし、李鬼は此の鬼沙羅魏家の現当主だ。由津鬼へ同情はあるが、やはり家の存続に合理的な判断を推すべき。  其の意見を声にせんと、口を開き掛けた劉鬼へ。 「こんな結果を前にしても……私は、あれ以外を伴侶に置けぬ。離縁は望まぬのだ」  まさかの流れ。 「はっ、兄上……な、何を仰って……兄上の子は、どうなさるのですかっ?」  なるべく冷静に問いながらも、劉鬼は不可解。何故なら己等が育った環境と劉鬼の性質上でも、家を第一に考えぬ思考があるのかと。もし、由津鬼を置いておきたいのならば、離縁後に妾として囲うで良い。当主には、とにかく正式な伴侶とされた血を受け継ぐ子を要するのだから。  喉迄で掛かるも、此れは無粋極まりない言葉。故、兄の気付きを期待して言葉を飲み込んだ劉鬼の耳へ。 「其処で、お前に頼みがある。私の新たな婚約者とした鬼を、私の代わりに伴侶として迎えて欲しいのだ」  とな。一瞬固まる劉鬼。 「わ、私が祝言を挙げるのですか……?」  声にも明らかな戸惑い。必要なのは、兄と其の伴侶の子ではと。しかし、李鬼も己が無茶を言うて居る事は承知の上。だが其れでも、子を生めなくても、由津鬼を手放したくは無いのだ。李鬼は、劉鬼へ手を付く。更に驚いた劉鬼が、思わず腰を上げ兄の側へ。 「お前は、家の第二子だ。自由に生きる権利があった……其れなのに、本当に済まない。私以外で本家鬼沙羅魏の血を持つ、お前にしか頼めんのだ……!」
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