やんごとなき事情故。

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 尚も頭を下げたままの李鬼。堪らず劉鬼は、身を起こす様に李鬼の肩に触れて。 「兄上っ。とにかくお止め下さい、私へこんな……其れに、私と其の鬼も兄上夫夫と同じ事になる場合もあるやも知れませんし……」  そうだ。我が家の現状は希な事態ではあるが、実際に起こり得た事。再び無いとも限らない。もしそうであったなら、婚約者となる其の鬼にも影響を及ぼす。鬼沙羅魏家含む十鬼族家へ婿を迎えると言う声が掛かったらば、当の鬼の一族に拒否権は無い。と言うより、断る理由が無いと言うべきか。家の富や地位の向上確約を前に、多くの者は籤が当たったかの如く感覚。其れでも、該当者に他に思う相手が居た場合や、富と地位に心動かぬ者の場合は厄介。十鬼族家の声掛けを袖にするのが、此の地獄と言う世界でどういう事を意味するかと言う重圧だ。そうなると、当事者は一族の為にも拒否権は失くなるのだから。  劉鬼の躊躇いへ顔を上げた李鬼は、決意込めた瞳で劉鬼を見据える。 「お前も理解して居るだろう。此処数代、鬼沙羅魏の血の質が弱まりつつある事を」  李鬼の鋭い瞳と発せられた話題へ、劉鬼は言葉を出す代わりに視線を外す事で答えを示す。そうなのだ。現在はまだ、十鬼族中頭一つ飛び抜けた鬼を排出して居るが、近年他家との差が縮まりつつある事。故、李鬼の婚姻には父が自ら厳選を重ねた。現役の頃等多忙の身でありながら、自ら地獄中を巡り、内に強い力を秘め生まれ持つ鬼を草の根を掻き分ける勢いで探し、そうして見付けたのが由津鬼であったのだから。で、あるのに結果が此の様な。此れはもう、鬼沙羅魏の陰りではと。
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