やんごとなき事情故。

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「お前へ、こんな事を頼むのに随分悩んだ……故よもやの事態は、お前の判断が何であれ従う。巻き込んだ相手の家へも、当主の私が責任を持って誠意を見せる。其の後は、鬼沙羅魏本家を分家へ託すつもりだ……だが、最後に足掻きたい!当主として!勝手な話で済まん……私は、由津鬼も家も守りたいのだ……頼む!頼む、劉鬼、力を貸してくれ……!」  再び拝をする李鬼へ劉鬼は、思わず息を飲んだ。己と新たに選ばれた鬼の間に子が生まれねば、本家が途絶えると言う未來が決定して居るとな。そうなると、十鬼族の力関係も変わるだろう。其れと引き換えても、兄は由津鬼を手放せぬとの意思。未だそんな恋情に出会わぬ劉鬼には、正直理解が出来ない。だが、家の為と育てられた兄の唯一つにして初の我が儘。劉鬼は、李鬼の頭上を憂え見詰める。そして何より、現当主の決定は絶対。其れが、家臣でもある己への命と宣うならば。  劉鬼は、一度気を落ち着け深い息を吐いて強い眼差しを李鬼へ捧ぐ。 「承知しました。私も、鬼沙羅魏本家の鬼です。受け継いだ血を守る義務と誇りは、兄上と同じくありますので」  やはり最悪の事態だけは避けたい。そして此れは、劉鬼の意思でもあるから。 「劉鬼……本当に、済まない。有り難う……――」  斯くして。鬼沙羅魏家の御家事情により、劉鬼の婚約者として白羽の矢がたてられた鬼とは。 「――密鬼(ミツキ)!」  鬼の青年が、背より聞こえた馴染みある友の声に笑顔で振り返る。 「鬼月(キヅキ)!初日の遅刻は、流石にしなかったみたいだな」
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