やんごとなき事情故。

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 密鬼と呼ばれた鬼の青年は、少し長めの髪を項で纏めた、粗末な小袖の袍に身を包む出で立ち。何処かおっとりした瞳は、少し幼げな印象を抱かせる。美麗とは違うが、朗らかで健康的な眩しさに目を引く。そんな彼の放った『初日』とは、学びの期間を終え一人前の獄卒として働く記念すべき日の事。本日より、新人獄卒の研修が始まるので。今足を進めるのは、正に其処へ向かってだ。  そんな密鬼の隣へ並んだ鬼の青年、鬼月は開口一番の鋭い御挨拶へ眉を寄せる。其の容貌は、少々強かな雰囲気漂う繊細な面立ちだ。 「当たり前だ。流石に此の日遅刻をしたら、印象悪いじゃないか……出会いの為にも、其処はな」  何やら含みある言葉。密鬼は、目を丸くさせて。 「出会い?何の?出世に繋がるとか?」  密鬼の問い返しに、鬼月は呆れた様な溜め息を吐きながら親友の肩を組む。 「出世狙うとか疲れるだろう、其れをやってのける優秀な鬼との出会いさ。俺、専業主夫目指してんの」  おおっぴらには語れぬのか、僅かに潜めた声で。密鬼は、更に目を丸くさせる。 「え?今日から初出勤なのに、もう結婚の話かっ?」  己等の若さから、早過ぎる選択肢ではと。つい最近迄、親の庇護の元学生をやって居たのに。が、そんな突っ込みに鬼月は笑って。 「相変わらずのんびりだな、お前は。将来設計ってのはな、早い方が良いぞ?取り敢えず、さっさと質の良い彼氏作れよ。未だに経験無しだろう」  からかい混じりのお節介へ、密鬼は顔を赤らめてしまう。其の通り、密鬼はそちらへは何の経験も無い上疎い。 「みっ、皆が早すぎるんだよっ……!鬼理都(キリト)だって、まだ彼氏出来たこと無いって……っ」
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