やんごとなき事情故。

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 同志の名を上げ、意見するも。 「あ。彼奴ならついこないだ出来た処だぞ」  衝撃の事実を今知る事に。そして、其れは其のまま嫉妬の念へ。 「彼奴っ、裏切ったなぁ……っ」  鬼月は、涙目になった密鬼の肩を軽く叩きながら。 「だから、お前も此れからじゃないか。一緒に目指そうぜ、専業主夫」  等と。密鬼は、近くに並ぶ鬼月を横目に睨みながら。 「大体専業主夫って簡単に言うけど、家の事色々やるんだろ?うちの母さん大変そうだし……仕事する方が面白そうじゃないか。小遣いも気兼ね無く使えるし」  そうだ。己の親を見て居ると、其れは大変な仕事だと。密鬼は、地獄の階級でも下級に位置する其の他大勢な鬼族なので父母の暮らしも相応。因みに、密鬼の言う『母さん』とは、男の鬼。男が圧倒的に占める地獄に於いては、肉体へ子を身籠る事が出来た方が『母』と称される為だ。  基。そんな密鬼の言い分へ、鬼月は又呆れを見せながら。 「甘いな。俺の夢は、食って寝て愛される贅沢な専業主夫だ」  真っ直ぐな眼差しでそう告げられた。 「逞しくも清々しい奴だなぁ……」  最早突っ込みも面倒になった密鬼は、ひきつった笑いで賛辞ともなる言葉を贈ってやるのだった。  そんなじゃれ合いの中、三途の川を横目に足を進め行く。其の内、知った顔を含め同じ方向を目指す鬼達の姿も。獄卒の職場へと辿り着くと、其処は見上げる程の高い門が聳える。此処は、地より器を失くした亡者を受け入れ様々な審査をした刑の執行を行う施設。の、裏門だ。獄卒として様々な職務を与えられた鬼達は、此の裏門より出勤し、其々の持ち場へ散るという具合。本日は、研修と言うことで講習を受ける為の部屋へと通された新入り達。畳が敷かれた広い部屋、其々促された順に腰を下ろして行く。  席へと落ち着いた密鬼が、受付けで貰った巻物を広げて居ると。 「今年の講習担当は、鬼沙羅魏様か」
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