第13話 蘇る星

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

第13話 蘇る星

※区切り線◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇の所で、 Youtubeなどで新居昭乃さんの「美しい星」を流しながらご覧ください。 「そこまで言われると…少し、こそばゆい感じがするな… 後、付け加えて言うならば、そもそも着き従う民を失った時点で、私は『王』ですら無くなっていたのだ…」  魔王は少しはにかんだ仕草で勇者の側に進む。 「そうか…私もお前の事を魔王ではないと言っておきながら、魔王と呼ぶのはおかしいな… 魔王と呼ばれる前はなんという名だったのだ?」  魔王は名を聞かれた事に、少し驚いた顔をした後、過去の記憶を懐かしむ顔をして口を開く。 「…ヒース… そう… ヒースと呼ばれていた…」 「そうかヒースと言うのだな… では、ヒース、私の手を取るのだ」  そう言って勇者は魔王…いやヒースに手を差し伸べる。  ヒースは差し出された手と勇者の顔を交互に見た後、その手を握り締める。  勇者はヒースが手を握り締めたのを確認すると、混乱して固まる賢者たちに二人して向き直る。 「賢者よ! ここには魔王と呼ばれたものは既にどこにもいない…  ここにいるのは、この星のただ一人の生存者、ヒースと言う名の人だけだ!  そして、私は勇者だ! 勇者はただ敵を倒す物ではない、それは復讐者だ!  勇者とは、人々のその祈りを…希望を…願いを…そして未来を護り導く者!  よって、私はここに宣言する!  私はこの星の唯一の人である、ヒースの願い…死の瘴気を払いのけ、新たな命を生み出し、この星の復活… その願いを護り導くのが私の使命だ!」  勇者が賢者に声を上げながら、ヒースと握り合う手の力を強める。ヒースもそれに答えて強く握り返す。 「なので、改めてお願いします! 賢者様!  このヒースと協力し、死の瘴気を払い、命を産み育み、そして、この星が命溢れる姿を取り戻そうではありませんか!!  賢者様も見たでしょう!? 先程の一万二千年前の人々の姿を!!  誰も戦う事だけを人生の生き方とはしていません!  確かに時には、人を恨み、憎む事もあるでしょう…  だが、それだけが人生ではないのです!  それぞれ共に語らい、笑って、喜怒哀楽を共有し、生きる事…  生を謳歌することが… 人の生き方なのです!!!」  勇者は懸命に声を上げる。そして、その姿にヒースも黙ってはいられずに声を上げる。 「私からもお願いする!  どの口がほざくのかと思われるかも知れないが、それも仕方が無い…当然の事だ…  しかし、それでもこの星の未来を考えれば、  立場や思想を超えて共に手を携えて協力しなければならない!  それでも私への恨みが消せないというのなら、  星が復活した暁…いや、私の知識と技術を受け取った時点でもよい  私を殺して、復讐の終止符を討つがいい!  だから、この星の復活に協力を!!!」  ヒースの声も部屋に響き、二人は互いに強く手を握り合う。  そして、二人は固唾を呑んで、賢者たちの反応を待つ。 (終わりだ…)  賢者の一人がポツリと漏らす。 (そう、終わりだ…)  他の賢者も続ける。 (まさか…勇者が魔王に篭絡されようとは…) (こんな形で人族が魔王に負けるとは…) 「篭絡なんて! それに先程も申し上げたように魔王はもう魔王ではありません!」  勇者が魔王に唆され篭絡されたかのように話し出す賢者たちに、勇者は弁明の声を上げる。 (いや…信じられぬ…信じてはならぬのだ!!) (それこそが我らの存在意義!) (一万二千年もあり続けた理由!) (しかし、我らの最後の頼みの綱である勇者を篭絡され) (本拠地に魔王に乗り込まれてしまった…) (終わりだ…) (もう終わりだ…) (しかし、我らもただでは終わらぬ!!) (勇者が篭絡されたり取り込まれた時の為に…) (我らが本拠地に乗り込まれた時の為に…) (それぞれに自爆装置を用意していた!) (ハハハッ! これで勇者を篭絡しても、我らの本拠地を押さえたとしても) (魔王! お前には何一つ残らない!!) (そうだ!! 魔王には何一つ渡さない!!!) (全ては人の歴史の終わりと共に消えるのだ!!!)  最後の言葉と同時に、賢者のクリスタルは輝きが消え、勇者は苦しみに胸を押さえる。 「クッ!!」 「大丈夫かっ!? 勇者よ!」  ヒースは膝を崩しかける勇者を支える。 「だ、大丈夫だ… 追加されたクリスタルのお陰で、私にはまだ時間があるようだ…」  勇者は痛みに堪えながらも笑顔を作りヒースに答える。  それと同時に、この本拠地の地下の奥底から地響きが鳴り響き始める。 「今は私の事よりも、ここはすぐに崩壊する… 早く、外に出なければ!!」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇  二人は本拠地の外へ出て、爆発の余波から逃れる為、空高く飛翔する。  そして、爆発し崩れ行く本拠地を見守る。 「一欠けらの人の心が残されているかと思ったが…やはりダメだったか…  人の形も…心も既に失っていたのだな…」  勇者が寂しそうな目で崩壊する様子を眺め、胸を押さえながらそう漏らす。  そんな勇者をヒースは、優しく抱きしめて、謝罪の言葉を述べ始める。 「勇者よ…済まない… 本当に済まない… 私の関わってしまった為…  君の命は… 私は何という業の深い存在なのだ…」  ヒースはポロポロと涙を流す。 「ヒースよ、貴方が謝る必要などない…  勇者は人々の為にその命を投げ出すのが役目なのだ…  それに、私はまだ終わってはいない…  私がこの星の未来の為に一緒に歩こうと言った言葉を覚えているか?」 「あぁ!覚えている! 忘れるものか!!」  ヒースは力強く答える。 「ヒースよ…  貴方は自分の力だけでは、死の瘴気の半分しか払う事が出来ないと言っていた…  もし… 私と力を合わせたら?  この星の全ての死の瘴気を払う事が出来るのではないか!?」  ヒースはその言葉に目を見開く。しかし、すぐに険しい顔に変わる。 「その可能性は考慮していた… しかし…足りぬ…それだけでは足りぬのだ…」  ヒースは伏目勝ちになる。 「では、私たちの身体を魔力に変えてはどうか?  どうせ私は長くない身だ… 今更、身体がどうなろうと惜しくはない!  どうだ? ヒースよ」  勇者はヒースの顔を覗き込むように尋ねる。 「いける…それならば大丈夫だ!!   逆に死の瘴気を払うと共に、我らの命を粒子をこの星にばら蒔けば、  自然に任せるよりかは、この星に命が芽吹くのを早める事が出来ると思う!」  ヒースは勇者の瞳を見つめ返して答える。 「ならばヒースよ!  私につき合わせるようで悪いが、この星の復活を手伝ってもらえるか?」 「あぁ!かまわない! これは私の始めた物語だ! 私が終止符を打ちたい!」 「ふふふ、もう私たちが始めた物語だろ?」  勇者は微笑んで言葉を付け加える。 「では、勇者よ、星全体の死の瘴気を払い、命の元を振りまく為、更に上空に昇るぞ」  ヒースとはそう言うと、勇者の両手を取って向かい合い、黄砂で黄色がかった空を駆け上がり、成層圏付近まで舞い上がる。 「うわぁ! 夜空だ! 空に星が瞬いているぞ!」  勇者が瞬く星を見て、無邪気な子供の様に声を上げる。 「勇者よ、成層圏まで上がり、星を見るのは初めてか?」 「いや、クリスタルの中にあった記録で見たことがあったが、直で見るとこれ程美しいとは…」  勇者は星空の美しさに瞳を潤ませる。 「勇者よ、あちらを見ろ、日が昇るぞ」  ヒースが指し示すと、丸みを帯びる地平線の向こうから、太陽が昇り始め、まるで指輪に輝く宝石の様に輝き始める。 「美しい…本当に美しい… まるで新たな命が生まれる輝きのようだ…」  勇者はその瞳に真珠のような涙の粒を浮かべながら、日の出に見惚れる。  そして、ヒースは一人呟き始める。 「 Ich habe geweint. Ich habe die ganze Zeit geweint. Ich vermisse das Alleinsein und habe Albträume, wenn ich schlafe. Deshalb habe ich geweint. Aber ich weiß. Ich bin mir sicher. Es hatte keinen Sinn, den ganzen Tag zu weinen, also hielt ich die Augen offen und träumte. Ich hatte einen wunderbaren Traum. Aber die Tränen trockneten nie. Damals sind Sie aufgetaucht. Du bist ein Gänseblümchen. Es ist das einzige Gänseblümchen auf diesem Planeten. Ich fürchte, Sie werden überrascht sein. Trotzdem rede ich mit dir. Versteht mich nicht falsch, ich bin nicht gruselig und definitiv nicht stark. Ich bin einsam und es ist schwer. Du hast auf meine Stimme gehört und mir geantwortet. Du hast mir gesagt, dass wir beide gemeinsam in die Zukunft reisen sollten. Ich bin also nicht mehr allein. Ich fühle mich nicht mehr einsam, ich muss nicht mehr weinen. Weil du an meiner Seite sein wirst. Von nun an werden wir gehen und unser Leben Gott opfern. Ich bin froh. Das liegt daran, dass die Gänseblümchen an meiner Seite sind und die Zukunft rosig ist. Ich werde heute Nacht tief und fest schlafen. Und ich schließe meine Augen und habe einen glücklichen Traum. Ich bin mir sicher, dass die Tränen versiegen werden. 」  ヒースが呟き終わると、勇者がキョトンとした瞳でヒースを見ていた。 「ヒースを何を呟いていたのだ?」 「いや、少し神に祈りを捧げていたのだよ…」  ヒースは少し照れながら答える。 「では、始めようか…」 「うん、始めよう」  二人は静かに手を取り合い、まるでダンスの様にくるくるとゆっくりと回り始める。  そして、二人から光の粒子が舞いはじめ、この星にまるで豊穣の雨の様に降り注いでいく。 「見てくれ! ヒース! この星が!」 「あぁ! 私にも見える! この星が… この星が蘇っていく!!」  光の粒子が降り注いだところから、まるで黄金色の麦が延びる様に光があふれ始め、死の瘴気が消えていく。そして、延びた麦が更に光の種を蒔き、新たな黄金色の麦が伸び、惑星全体へと広がっていく。 「この星が…この星が蘇っていく…」 「幾度となく夢に見た光景が… 今の目の前で広がっていく… なんと美しい…なんと素晴らしいのだ…」  二人は殻だけではなく魂までもが感動に打ち震えるのを感じていた。 「なぁ! ヒースよ!」 「どうした? 勇者よ」  勇者は視線を上げてヒースを見る。ヒースも勇者に答えて視線を上げる。  すると、互いの目に映ったものは、お互いに光に包まれつつも消えつつある互いの姿であった。 「私は…いつの日か…蘇って命が溢れたこの星の姿を… この星の上で見る事が出来るだろうか…」  勇者は優しい瞳でヒースに尋ねる。 「あぁ…出来るとも…例えこの身が消え去ったとしても… 魂は不滅だ… きっと蘇ったこの星に転生し、その姿を見る事が出来る…」  ヒースも優しい瞳で勇者に答える。 「その時は、ヒース…一緒にその姿を見ような…」 「あぁ…一緒に見よう、そして喜びの声を上げよう!!」 「約束だぞ…」 「あぁ…約束だ…」  二人はそう言い残すと、完全に全てが光の粒子となり、この星の上に降り注いだ。  こうして、一万二千年の時を経て、この星は蘇ったのである…
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!