尋常 じんじょう

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   ……暇だなぁ……。  今は四月半ば、春真っ盛り、寝坊気味の桜も満開になる頃。 テストはまだ少し先だというのに皆が黒板と教師に視線をむけ、熱心に話を聞き、ノートにカリカリと鬱陶しい音を立てて文字を書き込んでいる間。 俺はずっと窓の外(特に空)を眺めていた。  雲一つ無い、透き通るような青。 吸い込まれそうな程にすっぽりと綺麗に世界を包み込んでいる。 その真ん中に浮かぶさんさんと輝く太陽。 そして、冷たく頬を撫でる風。  物理は人間に素晴らしい奇跡を起こしてくれたなぁ、とか軽く感動しつつ、今度は下に目を落とす。 運動場には体育の授業にいそしむ一年生の姿があった。 入りたてでまだ緊張しているのか、律儀に全員整列して先生の話を聞いているようだった。  また空に目を移し、小さなため息をもらす俺。 うむ、何とも絵になってるな。  勉強そっちのけで暇を作る俺だが、勉強なんて後でチラッと見てノートにサラッと書いときゃ大丈夫だからな。  そういえば、俺は今年でもう中三になってしまっているんだった。 受験生だ。 とはいえ受験など、この勉強方法で上の下の成績を貫く俺にとって、その気になれば簡単にできる事だ。 今から頑張ってる奴が馬鹿馬鹿しいぜ。  と、この頃の俺はこんなカンジに平凡で倦怠な生活を嫌でも満喫させられていた……。 皆は俺が超能力者と聞いて、念力や発火能力を駆使しサイキックバトルを繰り広げるという、俺にとってはおぞましいのと馬鹿馬鹿しいので鳥肌がたってしまうような、日常とかけ離れた壮絶な日々を過ごしていると思っただろう。 が、現実はこうだ。 俺の超能力が、どうでもいいような能力のせいであるのも事実だが、結局、超能力なんてあっても無くても何も変わらないモノなんだよ。 みんな、暇だからって、自分に超能力が無いかと考えるのはよせよ。 時間の無駄だ。  ずっとそう思っていた。 ずっとそのままが続くと思っていた。 のだが、平凡な日常にオサラバする、いや、非日常が訪れるまでのタイムリミットは以外に近づいていた。 その頃には、とんでもないモノに巻き込まれ、とんでもない状況に置かれている上に、過剰な精神への負荷と精神的疲労が起こるとは、まだ夢にも思っていなかった。 いや、夢には思っていた……しかし、想像の中ではここま行き過ぎてはいないし、もっと精神的にも楽だった。
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