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「手伝ってくれてありがとう」
「いいんだよ、家族なんだから」
妹だけは守りたい。
そう思っていたから。
そこに、亀裂が走るように声が聞こえた。
「ねぇ、桜嶺(さくらみね)さんの妹さん、ほんとにダサいよね」
「そうそう、しかも勉強も運動もできないらしいわよ」
「うっわ、最悪じゃーん
釣り合わない姉妹ね」
頭にきた私は大声を出そうと彼女たちの前へ出た。
「あんたたちねぇ……!!」
「やめて!」
愛華は私の前で手を広げた。
「……やめて、お姉ちゃん」
「なんであんたが庇うのよ
私はあんたを守ろうとして……」
「わかってるよ、でも」
しばらくして愛華は声を振り絞るように出した。
「……これは、私の戒めだから」
「戒め?」
「……お姉ちゃんさ、前世って、信じる?」
「えっ……?」
私ともしかして「同じ」なのか?
その思考がよぎり、私は思考を停止させた。
「……前世……」
私の前世はいじめられっ子だった。
「戒め」なんていうのだから、もしかすると……。
「いじめっ子だったの?」
「えっ……なんで」
「なんとなく
『戒め』なんていうから」
数秒後、愛華はコクリと頷いた。
「……ねぇ、お姉ちゃん
私、生まれた頃から考えてたんだけど」
廊下の開いた窓から、春風が入ってくる。
長い髪をなびかせて、私は愛華の言葉を聞いた。
「私達、何処かで会ったことある?」
その日、私達は前世で関わりがあった人間同士なのだと思い知った。
「なんで、そう思うの?」
「雰囲気がなんとなく……似てたから」
「誰に?」
「……私がいじめてた女の子に」
数秒の沈黙。
すると、学校のチャイムが鳴り響いた。
「あぁ、もう授業行かなきゃ」
忙しそうにそう言い捨てて、愛華は私の前を走り去った。
話すのが嫌だったんだろうか。
「……いじめてた女の子、か」
私はただ、響くチャイムの音と共に、愛華が駆け下りた階段を見つめていた。
放課後、私は教室の前で愛華を待っていた。
双子だから教室はもちろん別々。
だから、待っていた。
『私達、何処かで会ったことある?』
その言葉に、違和感を覚えたから。
もし、愛華のいう『いじめてた女の子』が前世の私だとしたら。
私はこれからどう愛華に接していけばいいのだろう。
考えれば考えるほど頭が痛い。
「……あ、お姉ちゃん」
しばらくして、帰り支度をした愛華が教室から出てきた。
「帰ろうか」
私はそう言って愛華の手を掴んだ。
愛華は俯いて私の手を強く握り「うん」と小声で呟いた。
「あの言葉、どういう意味?」
私は帰り道、ずっと黙っていられなくてその言葉を口にした。
『生まれた頃から考えていた』なんて普通人間にはできないことだ。
ならば、同じ転生者ということか?
愛華はしばらく黙り込んだあと、深呼吸をして口を開いた。
「お姉ちゃんはさ、生まれ変わりって信じる?」
「生まれ変わり?」
「そう、さっき言った『前世』みたいなもの」
私は少し黙り込んだあと、答えた。
「……信じるよ」
「よかった」
少しだけ愛華ははにかみ、帰り道にある川の土手に降りた。
「私ね、前世がいじめっ子だったの」
空を見上げながら、愛華はそう言った。
「家が裕福だったから、何でも欲しいものは手に入れられてた
でもそれでも、友達の作り方が分からなくてさ
可愛い女の子にどうやったら可愛くなれるか聞きたかっただけなのに、いじめになっちゃって」
私は黙って聞いていた。
「そしたら、その子死んじゃってさ
私のせいだってみんな言い始めて
誰も信じられなくなって
気づいたら、死んでた」
愛華は泣いていた。
それと同時に笑っていた。
嫌な昔話を話すように、自分の罪をまるで分からせるように。
「……なんて名前だったの?」
「えっ?」
「前世の名前
覚えてるんでしょう?」
……本当は聞きたくなかった。
でも、真実は真実だ。
だから。
「勝俣優樹菜(かつまた ゆきな)」
「……そっか」
あぁ、やっぱりか。
「じゃあ『中島桐花(なかしま きりか)』って覚えてる?」
「……っ! なんでそれを……!」
しばらく沈黙が続いた。
愛華は私を見て、ずっと私の言葉を待っている。
「……全部話すよ」
私は愛華と同じように川の土手に降り、隣りに座った。
「……私の前世はあなたがいじめてた女の子『中島桐花』
でも、死んだ理由はあなたのせいだけじゃない」
「えっ……?」
「私の親友『穂名崎千代(ほなさき ちよ)』が死んだから」
「……それって……」
「死因は自殺だった
だから、あなたにいじめを受けていたんじゃないかと思っていたの」
空を見上げて、私は話した。
「……で、どうなの?」
「えっ?」
「いじめてたの? いじめてなかったの?」
愛華は少し俯いて答えた。
「……私は何もしてない」
「本当ね?」
「……うん」
少し震えた声だった。
「……わかった、これ以上は何も聞かない」
私は立ち上がった。
夕日に向かって、背伸びをする。
「……さ、そろそろ帰ろ
おじさんが待ってるよ」
そう言って愛華に私は手を差し出した。
「……うん」
愛華はその手を取って少しだけ俯いた。
「……まさか生まれ変わるなんてね」
どことなく懐かしい声が聞こえた気がして振り返る。
「……お姉ちゃん? 帰るんでしょ?」
愛華に言われて、私は「あぁうん」と答えて前を向く。
「……まさか、ね」
千代が生きてるなんてこと、ない……はずだから。
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