動物が話せる世界

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動物が話せる世界

俺は山代(やましろ)家で飼われている可愛いオス猫だ。 名前はサト。 俺を飼っている夫婦の親に里美(さとみ)という名前の人間がいたらしく、そこから名付けられた。 この名前は気に入っている。 タマとかミケとかクロとか、そういった安直な名前でもないし、バニラとかマロンみたいな甘そうな名前でもない。 どことなく和風の渋さもあり、それでいてカジュアルさもある。 俺にピッタリな名前だ。 今日は散歩にはちょうどいい気候だ。夕方が近づいてきて日差しも落ち着いている。キンモクセイの香りも心地よい。 気まぐれに町内を歩いていると、知り合いのトイプードルが飼い主と散歩しているところへ遭遇した。 「サト!」 トイプードルのモコが嬉しそうな声をあげる。モコはその名の通り、モコモコしたぬいぐるみみたいなやつだ。尻尾をぶんぶんと振っているのが見える。 「あら、モコちゃんお友達に会えて嬉しそうね。サトちゃんもお散歩?」 モコの飼い主であるふくよかな女性が俺に話しかけてきた。 「そんな感じだ」 特に愛想良くする気もないので、そっけなく答える。 「あらあら、あいかわらずね、サトちゃん。こういうのって塩対応っていうのかしら? やっぱり猫ちゃんはワンちゃんと違うのね~」 俺の態度を気にする素振りも見せず、女性はモコと一緒に去って行った。 「またね~」なんてモコの呑気な声が聞こえてくる。 俺は溜息をひとつ吐くと、また歩き出す。 今は散歩の時間帯なのか、あちらこちらで飼い主と飼い犬が会話をしながら散歩している姿が見える。 ほんの少し前までは見なかった光景だが、最近は違う。 今は、俺たち愛玩動物は飼い主と会話ができる時代なのだ。
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