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密告部屋
「本日は密告部屋へようこそ。ここでは一人、ご自分しか知らない事を密告して貰います」
密告部屋の主催者が告げると、一人の老人がため息をつくように口を開けた。
「私は、人を、殺した」
突然の告白に一同は息を飲むが、老人は告白を続ける。
「あれは、私が、まだ十八の頃だった。第二次世界大戦で徴兵に駆り出され、訓練もままならないというのに、戦地に出された。敵地ではあちらの兵士がこちらに銃口を向けていた。射たなければ撃たれる。わかってはいたが、あちらの兵士にも愛する家族がいたのだ。だが、それはこちらとて同じ事。私は躊躇わず撃った。殺してしまったんだ」
「なるほど、戦争中とはいえ、一人の人間の命を奪ったと?」
「そうだ…」
「死亡確認などはしましたか?」
「そんな事出来る余裕などない。私は、せめて遺族に亡骸を埋めて、その場から立ち去るので精一杯だったんだ」
「そうですか、今でも、その殺人の罪を悔やんでいらっしゃるのですね。では続いての告白に参りましょう」
「俺は、人を、跳ねてしまった」
老人に続き、一人の青年が、項垂れたように告げる。
「あれは仕事で帰りが遅くなり、深夜の十一時頃、車を運転していたんだ。ふいに横断歩道に子供が飛び出して来た。慌ててブレーキを踏もうとしたが間違えてアクセルを踏んで、跳ねてしまったんだ。後で謝罪しにいこうと思ったが、怖くなっていくにいけなかった。情けないよ」
「そうですか、謝罪出来なかった事を悔やんでいらっしゃるんですね。では次の方どうぞ」
「私は、父親と母親を、そして子供を殺してしまいました」
続いての告白は一人の女性だった。
「三名もですか、どういう経緯ですか?」
「当時、父親の介護をしていた私は、妊娠中でしたが、父の事で夫とは不仲だったので離婚する破目になったんです。しかし、その状態で出産するとどうなるか、ただでさえお金のない我が家ですから、子供まで不幸にしてしまう」
「その告白の続き、お伺いしても宜しいですか」
「せめて、私は良いから、子供だけでも食べさせる事が出来ればと、働き口を探しましたが、体調 が優れず、ろくに給料が貰えないまま退職しました。父の負担もありますし」
「それは大変、お辛かったでしょう」
「ええ、だから、私、やむなく中絶するしかなかったんです」
「残念です」
「父は様体が悪くなり、入院しました。入院中はずっと苦しむ父の姿を見て耐えられなかったので医師に『延命治療するか』と問われ『しない』と答えました」
「苦渋の選択でしたね」
「母も、父の死から体調を崩し、同じ病院に。でもなかなか見舞いに行けず、結局、母を見殺しにする事に。肉親の死を望むなど、酷く後悔しています」
「そういう経緯でしたか。では最後の告白に参りましょう」
「僕は、高齢者、施設の利用者様を、死なせてしまいました」
最後は、一人の若者だった。
「死なせてしまった、とは、どういう事です」
「認知症のある方を、複数見ていたんですが、歩行中にふらついたんです。その方。必死になって転倒事故を防いだのは良かったんですが、小さな傷から出た出血が鼻で詰まって窒息してしまったんです。僕がもっと、ちゃんと仕事していれば」
「大変なお仕事されているんですね。さて、これで全ての告白は終わりましたね」
告白部屋に集った四人の全ての告白を終えたが、主催者は続ける「ここで私からも告白する事があります」
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