こちらからそちらへ

8/8
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「私はまあ、来栖君はそのうち受験資格を失くすと思ってるんですよ」  湯呑を傾けながら、高村はひとりごとのようにつぶやいた。新しい受験者の名前を入力していた各務が顔を上げる。 「なぜ?」 「彼は弟君が心配だから現世に戻りたいと何度も訴えてますけど、心の奥底で弟君のことを信じてますから」 「未練が無くなるということですか」 「そういうことです。ですから、彼の心の整理がつくまで何度でも落としてあげましょう」 「やはり、人間のことは人間に聞くのが一番ですね、(たかむら)さん」 「私がここまではっきり断言できるのは、あなたが彼の本質を映して見せてくれるからですよ」 「それが浄玻璃の鏡の化身である、私の役割ですから」 「受験者数が溜まりましたね。それじゃあ、来栖君を呼びましょう」  高村はマイクの前に座り、楽し気に鉄琴を鳴らした。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!