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 一〇〇回以上顔を合わせているというのに、各務の態度は出会った当初から何一つ変わらない。一度目も九十九回目も一〇〇度目も同じトーンで不合格を告げられた。同情のひとかけらも感じさせない対応は酷く無機質で、揶揄ってきてばかりの高村の方に人間味やあたたかみを感じてしまうくらいだ。  ずいぶんな扱いを受けてるけど、なんか嫌いになれないんだよな。この人たち。  いつもの流れで受付に場所を移し、いつも通り来栖は次の受験を申し込んだ。カウンターの前に設置された長椅子に腰を下ろし、淡々とした二人の仕事っぷりを眺める。  各務がパソコンで管理された受験者リストの最後尾に来栖の名前を追加し、高村が出力された受験票に受付印を押す。ハイテクともアナログとも言い難い絶妙な具合が、お役所感満載で嫌いじゃない。 「どうせ無理でしょうが、次もせいぜい頑張ってください」  差し出された受験票には、第××××××××××××回 霊化試験と記されている。受験資格は死者であること、成仏を断念すること。試験項目は小論文と面談だ。未練・恨みの強さを測られる。この試験に合格すれば、霊になって現世に戻ることができる。 「次こそ受かって見せる。オレはまともじゃない。死ぬほど恨んでるヤツがいるんだ。この恨みはらさでか……!」  両手を胸の前に持ち上げ、来栖は手の甲をぶらぶらと揺らした。いわゆるお化けのポーズだ。 「未練を感じません。恨みがましくありません。心が籠ってません。この調子では次回も不合格ですね」 「ぶっは。ガミっち本当に容赦ない」 「笑うなよ!」 「あっはっは!」 「わざとらしいわ!」 「わざとですからねぇ」 「それじゃあ、あと四十六人受験者が集まったら試験をはじめます。それまでは外の空気でも吸っててください」 「はいはい。行ってきます」
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