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 ひとり外に出た来栖は無限に広がる空を見上げた。  足元はコンクリートのように固いがただただ真っ白で、何でできているのか見当もつかない。振り返れば、どこかで目にしたことのありそうな没個性的なお役所が建っていて、その入り口に列をなしたたくさんの人々が飲み込まれていく。来栖のように、通用口から出てくる人間は滅多にいない。  行列の中に小さな子どもたちの集団を見つけ、来栖は大きく息を吐いた。  何度説明されても、ここがどこなのかイマイチわからない。いや、わからないと言うよりは腑に落ちないと言った方が正確だろう。  来栖は心霊も死後の世界も転生も話半分に受け止めてきた。信じる人にとって在るのだろうし、信じない人にとっては無い。自分自身の感じ方に白黒付けるつもりもなければ、誰かと論争するつもりもなかった。  ただ、天国はあってもいいかなと思っていた。地獄に落ちるのなんて勘弁だし、もう一回生き直せと言われるのはちょっと面倒くさい。お金の心配も、人間関係の煩わしさもない場所でのんべんだらりと過ごせるなら、それが一番いいと考えていた。  なのに今、来栖は現世と幽世の狭間にいる。ここにいるのは死者と、それを裁く者たちだ。  来栖が死んだのは現世の時間の流れで言えば二年ほど前。誰かに殺された訳でも、居眠り運転のトラックが突っ込んできた訳でもない。頭の血管が詰まって死んだ。享年二十五歳。やりたいようにやってきたから、自分の人生に対する後悔はない。けれど、どうしても心残りと言うものはある。 「紅十郎……」  生傷の絶えない勝気な少年の顔を思い浮かべ、来栖は目を潤ませた。高村とやり合っている間は気が紛れるが、紅十郎のことを思うと感情のまま喚き散らしたい衝動に駆られる。  来栖は強くくちびるを噛みしめた。
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