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 八歳年下の弟、紅十郎。真っ直ぐ過ぎるが故に人とぶつかりやすく、誤解されやすい不器用な性格をしている。理解してくれる友人は多いが教師からの評価は低く、学校という枠組みが似合わない少年だった。 「お前みたいな人間は、大人になった時に輝くんだ。大人は自由だぞ。学生時代のように決められた道はない。だから、自分で道を作れる奴が強いんだ」  紅十郎が悪い方向に流されそうになるたび、来栖は彼にそう説いた。 「今は窮屈だろうが、せめて高校卒業までは頑張ってくれ。お前が学校で学んでいることは、絶対に無駄にはならないから」 「兄ちゃんまで綺麗事言うのかよ」  学校に呼び出しを受けた帰り、来栖は不貞腐れたようすの弟のつむじに親指をぐっと押し付けた。油断していたのだろう、紅十郎の頭の位置ががくんと下がる。 「俺のは経験からくる助言だ。お前の嫌いなセンセーと一緒にするな」 「でも、言ってることはほとんど同じだ。だったら今、兄ちゃんは二次方程式を使ってるのか? フレミングの法則は? 古文を読むことがあるのか?」  押さえ付ける来栖の手を払うことはせず、紅十郎は負けじと踏ん張り押し戻してくる。まるで、沈みたくないと顔を真っ赤にして駄々をこねる夕日のようだ、と来栖は笑った。 「そういう返しができる時点で役に立ってるじゃないか」 「そんなの屁理屈だ!」 「お前が言ってるのも屁理屈だよ」  泣き虫だった紅十郎がいつのまにか弁が立つようになった。まだまだ子供だと思っていたかったが、地面に伸びる二人の影は縦も横もそう変わらない。紅十郎の方が靴のサイズが大きいことを考えれば、来栖の背を追い抜く日はそう遠くないのだろう。 「全く、かわいくなくなっちまったなぁ」  感慨深くそうつぶやくと、わずかに小さい方の影がふと立ち止まり、大きい方の影のシャツの裾を掴んだ。
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