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「どうした?」 「……別に」  視線を向けると、紅十郎はすぐに手を離した。  そっぽを向いた頬のラインが懐かしい。こういう時の紅十郎はたいてい。 「拗ねてんのか。こんな生意気なツラして、かわいくないって言われてしょげるなんて誰が思うかよ。普通は格好良いって言われたいもんだろ」 「違う。見た目の話じゃない。かわいいっていうのは気持ちだろ」 「あ、そういう」  想定外の回答に、来栖は紅十郎の頭を撫でた。   「お前は俺にとってたった一人のかわいい弟だよ。目に入れても痛くない。何があっても俺はお前の味方だ。  お前のことをロクに知りもしない誰かの心無い言葉より、お前のことを誰よりもかわいがっている兄ちゃんの心の籠った言葉を信じろ。間違いだとわかりきってる道を選んだり、自ら道を終わらせるようなことだけはしてくれるな」 「兄ちゃん、今日はヤケに真面目じゃん。死期が近いの?」 「二十四歳の前途の明るい若者になんてことを言うんだ、お前は。俺はまだまだ死なないよ。お前が大人になるところを見てないからな。死んでも死にきれない。もし万が一死んでしまったら、その時は化けて出てきてやる」 「化けて……?」 「幽霊になってでも、お前のことを見守ってやるよ」 「そっか。心強ぇの」 「そうだよ。だから、安心して生きてくれ」  そう、約束したのに。  来栖は想像もしていなかった意味の分からない試験に落ち続けている。
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