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 スーツ姿の男女を前に、青年は緊張の面持ちで立ち尽くしていた。  先に名前を呼ばれた者たちは一人一人この場を後にしており、残っているのはひとりだけ。ジーンズの太もものあたりで拳を握り締め、その瞬間を今か今かと待ち焦がれている。  生真面目そうなショートボブの女が言葉を発したのと、緩い空気を纏ったハーフアップの男が青年の肩を叩いたのは同時だった。 「来栖さん。残念ですが、これで通算一〇四回目の不合格です」 「うっ……」  来栖と呼ばれた青年の嘆きの声が、静まり返った講堂に虚しく響く。おちょくるように肩に置かれた男の手が二度弾んだ。 「よくもまぁ、飽きもせずに挑み続けますね。あなたには適性がないって何度落ちたらわかってくれるんですか?」  来栖は一瞬滲ませた悲壮感を怒りに変え、微笑む男の顔を睨みつけた。 「うるさいな。それでも、続けていたら万に一つの可能性くらいはあるだろ」 「それはまぁ、来栖さんに許された時間は無限ですから。一万回落ち続けることは可能ですよ」 「無限じゃない。こうしている間に、もう二年も経ったじゃないか」 「ではね」 「いい加減、成仏してくださいよ。毎回毎回、不合格を言い渡す方の身にもなって下さいってば」  男は両手を肩の高さに持ち上げて、やれやれと首を振った。ふざけた態度で来栖を煽って楽しんでいるのは明らかだ。大柄な体格が、思うように背が伸びなかった来栖の劣等感を必要以上に刺激する。男はそれがわかっていて、わざと見下ろすような視線を来栖に向けた。 「面白がってるやつの言うことじゃないだろ」 「心外ですね。こう見えて、私はいつだって心を痛めているのですよ。二十年以上生きてきて、諦めることを知らないあなたの残念さに」 「諦めないのは俺の長所だ!」 「すばらしいことでございますねぇ」 「このっ!」  本気で殴ろうとした訳じゃない。けれど、右手を振り上げたところで男と来栖と間に女が割って入った。
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