闇を照らすともしび

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「私のせいです……。私が寮に残るって決めたから小鳥ちゃんも残ってしまったんです。無理矢理にでもみんなと一緒にバスへ乗せるべきでした!」  (せき)を切ったように世良が泣きながら懺悔をした。  迎えのバスに乗せていたら小鳥は他の生徒と一緒に過ごせていた。今も笑っていられた。生きていた。激しい後悔の波が世良の身体へ押し寄せた。 「違う! 椎名さんは自分で決めたんだよ!」  詩音が迷わず反論した。 「自分の人生はね、自分で責任を持たなければならないの。椎名さんはここに残ると決めた。私も、あなたも!」  泣く世良へ詩音はあえてキツイ口調で諭した。 「やめたいのならまだ間に合う。高月さんは明日にでも寮を出たらいいよ」  世良は顔を上げて詩音を見た。 「……そんな……出来ません。コハルさんを残して行くなんて……」 「だったら歯を食いしばりなさい! そんな調子で水島さんを捜しに行けるの!? 危険な迷宮で彼は半狂乱になっているんだよ!?」 「う……う。うう……!」  涙はなかなか止まらなかったが、世良は奥歯を強く嚙み合わせ泣き止もうと努力した。詩音の言い分がもっともだと思ったのだ。 「ご、ごめんなさい……。もう後ろ向きなことは言いません……!」  自分が水島を助けに行く。世良は決めた。  最近は彼に護られてばかりでずいぶんと弱くなっていた気がする。ヒーローに気遣われるヒロインのように。 (そんなの私のガラじゃない、今度は私がウルトラマンになるんだ)  世良の顔に精気が戻ったことを確認した詩音は微笑み、世良を優しく抱きしめた。世良は詩音の温かさが嬉しかった。 「セラ、他の皆さんも水島さんを責めないで下さい……」  雫が発言した。そして皆が知りたかったことを話した。 「あの時、私達は魔物の群れに包囲されたんです。水島さんと多岐川さんの銃の弾が残り少なくなって……、そんな時に椎名さんが白い犬に襲われて脚を更に深く負傷しました。彼女を助けようとして、水島さんも腕を怪我してしまいました」 「あ、そう言えば犬が伸びてたな……。水島の腕の出血はソイツに噛まれたのか」 「コハルさん……、コトリちゃんを助けてくれたんだ」  藤宮達は駆け付けた現場を思い出した。 「このままでは全滅、と言うところにヤスフミが登場したのです」 「ヤスフミ……。私を乱暴した陰陽師ですね?」  詩音が怒りを押し殺して確認した。 「そうよシオン。ヤスフミの狙いは家臣の子孫を根絶やしにすることと、この世の全てに災厄を撒き散らすこと」 「おいおい、人類全てを呪い殺す気かよ。勘弁してくれ」  藤宮の愚痴には灯夜が答えた。 『あやつはこの世の全てを恨んでいる。もはや同胞だった俺の言葉も通じない。そればかりか主君である姫様に危害を加えるまでに至った。斬り捨てるしかない』  雫は哀しそうに言った。   「ヤスフミは彼の計画に賛同しなかった私に怒り、私を呪いの一部にしようと連れ去ったのです。その際、マコトが私を助けようと抵抗しました」  恋する相手の危機を前に多岐川が黙っている訳がない。藤宮は情景を想像して目を伏せた。 「ヤスフミは私さえ差し出せば魔物を退()かせると言いました。だから水島さんはマコトを止めようとしたのです。水島さんの行動は全滅を避ける為でした」  雫を助けようと情で動いた多岐川。残った者が生存できるよう、雫一人を犠牲にする選択を取った水島。 「口論の末、二人は撃ち合う寸前までいきました。でもマコトは撃てず、生きようとする強い意志を持った水島さんが勝ちました……」 「……………………」  部屋に重苦しい空気が充満した。 「……畜生。そういうことだったのか」  藤宮が長めの髪を掻いた。水島の行動は合理的なものだった。むしろ兵士として失格だったのは多岐川の方だ。 「では椎名は? どうして水島は助けようとした椎名にまで銃を向けたんだ!?」 「……私はもう連れていかれたので見ておりませんが、おそらく椎名さんはマコトを撃った水島さんを責めたのでしょう。真っ直ぐな性根のコでしたから」  。過去形が哀しい。 「水島さんは椎名さんを黙らせようと、脅しのつもりだったんじゃないでしょうか……?」 「水島に椎名を撃つ気は無かった……。だが直後に到着した俺達は誤解して水島に銃を向けてしまった。アイツを反逆者と認定して。……クソッ!」  藤宮が右足でダン!と強く床を蹴った。彼が感情のままに暴れるのは珍しいことだった。自分の判断ミスで水島を放逐してしまった、その事実が藤宮を打ちのめしていた。  世良も自分を責めていた。何故水島を信じてやれなかったのかと。小鳥は信じ、己の身を投げ出してまで彼を庇ったというのに。だが泣けない。強くなると誓ったばかりだ。 「……立川さんに報告しなきゃな」  藤宮は何とか落ち着きを取り戻した。 「ええとトウヤ……さん、アンタは迷宮へ戻るのか?」 『いや、これからは姫様のお傍に仕える。姫様が迷宮へ赴く際はお供するが』 「しかしアンタは陽の下を歩けないだろう? 俺達が迷宮へ潜るのは昼間だぞ?」 『迷宮内は昼も夜も変化が無い。夜に向かう訳にはいかないのか?』  藤宮ははたと気づいた。 「そうか。今までは夜間の魔物の襲来に備えて寮に居たが、護る生徒を別の場所に移したのだから、これからは夜に寮を留守にしても問題ないのか」  笹川も頷いた。 「だったらこれからは夜に活動して昼間休むようにしませんか? 昼間は魔物が襲ってこないんだから、誰かが警備に就く必要が無くなりますよ」 「そっちの方が良さそうだな……。よし、それで行こう。これからは陽が落ちてから迷宮へ潜る」  藤宮は世良を振り返った。 「高月、すぐにでも水島を捜しに行きたいだろうが、今の戦力ではミイラ取りがミイラになる。立川室長が雫姫の救助隊を派遣すると言っていた。それを水島の捜索に回してもらおう。彼らの到着、そしてトウヤさんが動ける時間まで待つんだ」 「はい……!」 「次に迷宮へ潜るのは明日の晩だ。みんなそれまでにしっかり休んでおくように」  世良は素直に従った。落とし穴でパーティが分断されて起きた惨事。多岐川……、勝手な行動を取れば優秀な人間でもすぐに命を落とすのだと学んだ。  小鳥と多岐川の死を悼みながら、世良は何とか休もうと頑張った。体力と気力を回復して、明日万全の体制で水島を迎えに行けるように。
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