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つながり
㈱バビルエンジニアリングの社長、浦松 雄貴は町工場でエンジン部品を作る同業者として、また新製品開発のライバルとして度々熊久保の工場に顔を出した。
「なあ、特許侵害で訴えられたんだって」
「耳が早いな。
賠償金15億よこせとさ」
大学時代から、一緒に飲みに行ったりする仲だった。
「熊久保さんとこも、大変だな。
もし合併の話に乗る気になったら相談に乗るぜ」
屈託のない笑みを浮かべて冗談を言う。
訴訟費用を考えれば、支払不能に陥ってもおかしくない。
両肩に重い鉄材がのしかかったような気分だった。
「まあ、そう落ち込むな。
物は相談だが、知財専門の弁護士を紹介しようかと思ってな」
思いがけない提案に、まじまじと浦松を見た。
「フェニックの栃谷は厄介な相手だが、何とかしてくれそうな男がいるぞ」
名刺入れを探り、一枚取り出してよこした。
「同じ事務所で働いていた、樋宮という弁護士だ。
実力は業界トップクラスと噂されている。
工学部出身だから専門知識もある」
「顧問弁護士を代えるのか。
六角さんにはいろいろお世話になってきたが、今回の件は長びきそうだ。
専門知識のある顧問弁護士は喉から手が出るほど欲しいところだ」
「よし、じゃあすぐ来てもらうよう電話しておく」
言葉通り、すぐに駆けつけてきた樋宮は熊久保と同じくらいの年だが若々しい男だった。
「特許侵害で訴訟になったそうですね。
早速ですが図面を見せてください」
挨拶もそこそこに、来客用ガラステーブルに図面を広げると隅々まで丁寧に確認していった。
「熊久保社長は、どのように感じますか」
特許侵害は間違いないこと、図面の癖まで似ていて少々違和感を感じたことを話した。
「率直に申し上げます。
この件には裏がありそうですね」
「内通者がいるのでしょうか」
イエスともノーとも言わず、図面を指でなぞって確かめ始めた。
「六角弁護士に気をつけてください。
悪い人ではありませんが、気が弱いですから。
それと、貴社が保有する特許の書類を見せてください」
図面の内容を見ただけで理解したようだった。
何も質問せずに他の特許もチェックしてくれることになった。
「これでは他の特許も訴えられてしまいますよ。
なぜだかわかりますか」
特許請求の範囲のところを指でコツコツ叩きながらいう。
「材質と形状、用途などを具体的に書いているのはいいですが、どこまでを保護するのか考えていませんね。
穴だらけの特許です。
すべて見直しましょう」
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