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物ごころついた時から、澄香は、人と喋るのが苦手だった。
気ごころの知れた人と二人でなら、少しは喋れる。だけど、三人以上になると、専ら聞き役になってしまう。
「スミちゃんは?」
と、たまに振られても、
「あっ……」
「うん……」
「そうだね……」
と、作り笑顔を浮かべるのが精一杯。
今日こそは!と思っても、
「スミちゃんって、喋んないよね」
「つまんない」
みんな去っていく。気がついたら、いつも一人ぼっち。
結局は、そうなってしまう。
そんな澄香にも、ただ一人、気にかけてくれる友だちがいた。
孝平くん。
近所の同い年の男の子。
いつもは、大勢の男の子たちと活発に遊んでいるのに、一人の澄香を見かけると、抜けてきて声をかけてくれる。
たいがいはそれだけなのだが、たまに
「ごめん。俺、帰るよ」
とグループの仲間たちに言って、そのまま澄香と二人で遊んだり。
小学校低学年の頃のある日、学校の砂場で、いつもみたいに一人遊びをしていると、どこからかやってきて、
「へぇー、澄香ちゃんって、絵、うまいんだね」
澄香の横にしゃがんで、砂に描いた絵を褒めてくれた。
「何を描いたか、わかるの?」
「わかるよ。くまのプーさんだろ?」
孝平がそう言って白い歯を見せると、澄香も嬉しくなって、ニッコリ笑った。
「澄香ちゃんの絵って、なんか好き」
「えっ……恥ずかしい」
「恥ずかしいことなんか、ないよ。このプーさんなんか、本物よりやさしそう」
「……ありがとう」
「じゃ、またな」
そう言うと、孝平は、他の友だちのいるジャングルジムへと走っていった。
それを見届けてから、澄香は砂場のプーさんを見つめた。
大好きで、自分の部屋はプーさんのぬいぐるみだらけだ。
でも、学校には持って来られない。だから、自分でプーさんの絵を描くようになった。
描くなら、自分にやさしく微笑みかけてくれるような……と思って描いたのだ。
(それを、孝平くんはちゃんと感じてくれたんだ!)
そのことがすごく嬉しくて、描いたばかりの砂場のプーさんが滲んでいった。
そんな澄香を、プーさんはやさしく見守ってくれていた。
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