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◇
「……幸せに」
俺は彼女が出て行ったあと、ぽつりと言葉を落とす。するとアラームが鳴り、俺はハッとするとスマホのアラームを止める。時間だ。
この5年間、彼女にひた隠しにしていた小さな箱の前へと行くと、箱を開いた。クローゼットの中に隠しておいた小さな箱という名の薬箱。中には薬が入っている。病気を治すための薬。飲んでも治らないけど。この5年が、その証明だ。
お昼に飲む薬を何錠か取り出すと、キッチンへと行き、水をコップに注ぐ。薬を飲み込むと、未だに慣れない薬が喉を通る感覚に顔を歪める。
新しく幸せにしたい人なんていない。新しくできた好きな人もいない。
ただ今の俺じゃ、彼女には迷惑をかける。彼女を幸せにできない。だから、終わりの道を選んだ。彼女は俺じゃなくて、他の人と幸せになるべきなのだから。
俺が死んだときに、彼女を悲しませてしまう。彼女を悲しませたくない。そうしてしまうくらいなら、彼女を傷つけて遠ざけた方が全然良い。それで彼女が幸せを掴むのなら、それで。
だからどうか傷つけたことを許してください。化けの皮を被った僕を許してください。
どうかお幸せに。
俺は、ポロっと閉まっていた感情を外に出すと、しばらくその場にうずくまる。声も出ない涙なのに、耳元で煩く聞こえた。
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