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欲しいと思っていた、言葉じゃなかった。
「別れてほしいんだ」
彼の口から零れたのは、私が考えていた幸せへの言葉ではなく、終わりへの言葉。5年付き合って、うち2年同棲してそろそろプロポーズが来ると思っていたら、まさかの別れてほしいというパワーワード。丸まった猫背はいつも弱々しい印象を与えるのに、この時だけはその猫背さえも伸びていて、シャキッとしている。本気であることが伝わってきた。
「えっ、何で……?」
私は理解ができずに、ついポロリと言葉を漏らす。その言葉を聞いて、彼は俯いた。それからいつものように猫背になる。丸まった背中は、弱々しく見えた。
彼と上手くいっていないようには思えなかった。恋は盲目というけれど、絶対に違う。私たちはちゃんと幸せだった。それなのに、どうして別れを告げられたのだろう。どうして、この関係を終わらせないといけないのだろう。
そんなの嫌だ。
「私のこと、嫌いになった……?」
私は確かめるように彼を見る。彼はその言葉を聞いて、一瞬こちらを見ると、それからまた俯いてしまった。その姿に、胸がぎゅっと痛くなる。
「他に、幸せにしたい人ができたんだ」
「え……?」
「他に、好きな人ができた。俺は、その人を幸せにしたい」
弱々しいながらも、重みのある言葉は私の心に深く響いた。直球的に告白され、私の心はさらにダメージを負う。
他に幸せにしたい人ができた? 他に好きな人ができた? 日本語なのに、日本語じゃないような言葉。言っている意味が理解できない。
「だから別れてほしい」
「そんな勝手な……」
「勝手なのは分かってる……!」
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