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2-02これではとても置いとけない
「あっ、盗賊かな?」
狭くなっている道の横にある草むらから、ゾロゾロと人相が悪い男たちが出てきた。中には女の人もいたが全員が武器を持っていて、俺たちに好意的じゃないのは明らかだった。でも万が一盗賊でない人を攻撃したら大変だ、こっちが犯罪者として追われることになってしまうのだ。だから俺は他の冒険者と一緒になって荷馬車の前に出ながら、わくわくしながら相手がなんて言うのか待っていた。
「その荷馬車を置いていきな!! 俺たちはあのヘルディン盗賊団だぜ!!」
「はい、盗賊さん決定いただきましたー!! 『電撃槍』」
俺は相手が盗賊団だと名乗った瞬間に魔法を使った、味方と混戦になってから使うよりもそれが楽だからだ。俺の魔法の一撃で十数人いた盗賊団は焼け焦げて死んでいた、俺と冒険者のお姉さんたちは一応全員が死んでいることを確認した。雷撃に当たって死なない人間は珍しいが、事前に魔法で防御されている可能性はあるからだ。
「本当に役に立って可愛い坊やね」
「あたしにもあれくらいできるように魔法を教えてよ」
「やっぱり、パーティに入って欲しいわ」
「可愛いのに強い、えへへへ。また頭をなでなでしてもいいよね」
そんなわけでまた俺は頭をふわふわになるまでなでなでされた、うむ好きなだけ俺をなでなでするがいい、種族は違ってもメスにモテるのは悪い事ではないのだ。
「こんなに小さいのにもう大人だなんて」
「ドワーフの血でも引いてるんじゃないの」
「それなら納得できるかも」
「可愛い、もっと頭をなでなでしていいよね」
俺はドワーフと人間のハーフ、その設定は良いなっと思った。そう言っておけば俺の背が小さいことも誤魔化せる、今の商人の身分証を長い間使うことができるはずだ。ドラゴンは嘘が基本的には嫌いだが、それが誰かを害するものでないなら、多少は大目にみる少なくとも俺はそうだ。誰も傷つけない嘘ならいい、そう思って俺はそのドワーフとのハーフという設定を使うかと思った。
「使えるものは何でも使わないとな」
そうして俺たちは他に何事もなく野営をして、数日後に隣町に荷馬車は到着した。俺もきちんと護衛賃を貰っていたが、全力で来た道を引き返した。何故かって何故ならそこに盗賊団がいるからだ、きっとお宝を貯めこんでいるに違いない、ならばその盗賊団を潰さない理由は俺にはなかった。『広範囲探知』で襲われた場所から周囲を探った、そうしたら不自然に八十人くらいの人間が集まっている場所があった。
「てめぇ、ここがヘルディン盗賊団だって知ってるのか!!」
「今、知ったよ。そして、さよなら。『電撃』」
今回も俺は堂々と正面から盗賊団に入っていった、助けるような人質もいないから奇襲をする必要がなかった。次々と現れる敵である人間をショートソードで切り殺し、時には魔法を使って焼き殺していった。わざと人が集まってくるのを待って、今度は魔法使用禁止の縛りプレイまでしてみた。結果的に俺の体は風のように速く動いて、立ち向かってきた盗賊は全員が死んでいった、お宝である金貨や銀貨が沢山手に入った。宝石なんかも欲しいのだが、持ち主が特定されそうなものは諦めた。
「人間は一年中が発情期だから困るな、いっつもほぼ裸の女が捕まっている」
そしていつものように捕まっていた女の人たち、彼女たちを牢から解放したらすぐに全員が逃げ出した。ただよく見ると一人だけすみっこで震えている少女がいた、長い黒髪の少女で怯えて立てもしないようだった。このまま彼女をここに置いていったら、そうしたらこの少女はここで飢え死にするに違いなかった。仕方なくフードを被って顔を隠したまま、俺はその少女を近くの街の孤児院まで連れて行こうとした。
「まぁ、偶には善行をするのも悪くな……」
「どらごん?」
「え!? 何? まさかだろ!?」
「あるかんしえる? どらごん?」
俺は十歳くらいの少女の顔をよくみた、黒髪にさっきは見えなかったが黒い瞳をしていた。しまった、彼女は迷い人だ。一瞬だけだが俺はこのままこの少女をここに置いていこうか、そう思ったが少女は痩せていて弱々しくとても小さかった、俺がここに置いていったらそのまま死ぬのは明らかだった。仕方がなく、本当に仕方がなくだ。俺はその少女にまず名前を聞いた、それからいくつか質問をした。
「名前は何て言うんだ?」
「小林明空」
「アクアだな、年は?」
「十歳」
「どこに住んでた?」
「えっと、長崎県佐世保市の……あとは分かんない」
「にほんじゃないのか?」
「長崎県は日本だよ」
こうして俺は顔を隠したままアクアという少女を保護した、それからまず俺がドラゴンであることを言わないように約束させた。ドラゴンとの約束は魔法での契約に近い、これでアクアは俺がドラゴンであることを言えなくなった。まぁ、俺よりもアクアの魔力が強ければ別だがその可能性は低かった。アクアはとにかく怯えていた、俺には素直にくっついてきたが、周囲に誰かいないかとキョロキョロしていた。
「アクア、俺がドラゴンだと言わないと約束したな」
「うん、アクアはシエルと約束した」
「アクア、お前は俺の前にすてーたす?というものが見えるか?」
「すてーたす?」
「えっとな、これくらいの薄い板で数字が書いてあるものだ」
「ガラスみたいな板が見えるよ、あるかんしえるって名前が書いてある」
「よっし、そのすてーたす?が見えることも俺と俺の仲間以外に言うな、今ここで約束しろ」
「アクアはシエルと約束する、すてーたす?が見えること、絶対にシエルたち以外に言わない」
そうして俺はアクアを盗賊団の牢屋から連れ出した、だが彼女からは糞尿のような酷い匂いがしていた。まずは風呂だと思って『魔法の箱』の中にあった桶を取り出した、それを取り出して魔法でお湯を出した、そして俺がアクアのボロボロの服を脱がそうとしたら、彼女はふるふると震えてはいたが逆らわなかった。恐る恐るそうしてアクアの服を脱がせたら俺は少しだけ驚いた、裸のアクアの体は大小が入り混じった傷だらけだった。
桶にためたお湯を何度も取り替えて、俺の持っていた石鹸でアクアの体をゴシゴシと洗いまくった。そうしたらとりあえず酷い匂いは消えて、アクアは石鹸の匂いがするようになった。体を洗っている間もアクアは震えていた、そうして打撲らしい傷に触れた時には痛いのか、ビクリッとその体が反射的に動いていた。俺はだんだん面倒になってきた、こんな子どもが傷だらけなのが気に入らなかった。
「ああ、もうついでだ。『完全なる癒しの光』」
「…………痛くなくなった」
「これは魔法だ、もう痛いとこはないか?」
「ない」
こうして俺はアクアを保護した、でも俺の顔は絶対見せないようにしていた。フードを深く被って顔は鼻の上まで黒い布で覆っていた。アクアの服はボロボロだったから、とりあえず俺の売り物の服と靴を着せた。アクアはぶかぶかの服を着て自分の体の傷がなくなり、痛みがなくなったら不思議そうにしていた。近くの街の孤児院まで、そう近くの街の孤児院までだ。そう俺は自分に言い聞かせて、アクアの小さな手を握り一緒に街まで歩いていった。
「嫌あああぁぁぁ!!」
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