3-14絡まれても剣はいらない

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3-14絡まれても剣はいらない

「アクア、もっと警戒してくれ。アクアはとっても可愛い、俺の大切な女の子なんだから」 「…………分かったの、ちょっとシエルのその言葉は反則なの」  俺の大切なアクアは体全身を真っ赤にしていた、そんな可愛いアクアをレンが面白そうに見ていた、リッシュは微笑ましそうに少しだけ口元を上げながら見ていた。それから俺たちは次の街に向かったのだが、その街に入っていく人間はかなり少なかった、入っていく人間は商人らしき者ばかりだった。あまり良い街ではないのかと思いながら中に入った、そうしてすぐに露天商をしている人間に話を聞いてみた。 「おじさん、その美味しそうな串焼きを四本頂戴」 「おうよ、分かったぜ」 「ねぇ、おじさん。なんでこんなにこの街にくる人が少ないのかな」 「なんだ、知らねぇのか坊主」 「そうなんだよ、何も知らないでこの街に来たんだ」 「この街の向こうでな、もうすぐ戦争を始めんだよ!!」  俺はその言葉にとっても驚いた、アクアも目を丸くしていた。でもレンは意外と冷静だった、リッシュは少しだけ不安そうな顔をしていた。とりあえず買った串焼きを皆で食べながら、この街の情報を集めてみることにした。ちなみに意外と串焼きは美味しかった、塩味という単純な味だったが肉の処理が良いのか美味しかった、俺は醤油につけたらもっと美味しいだろうなと思った。  その後は俺とアクアは一緒に歩いて神殿に向かった、いつもの寄付と情報集めの為だった。レンとリッシュもいつも通りの冒険者ギルドへ向かった、俺は神殿の後で商業ギルドにも行こうと思っていた。アクアはやっぱりちょっと緊張していた、俺の手をずっと握り締めて歩いていた、まぁたとえ戦争があっても俺たちは大丈夫だった。いざとなればドラゴンになったレン、彼の背中に乗せてもらって逃げれば良かった。 「これは少ないですか、神殿の孤児院への寄付です」 「これはありがとうございます」 「もうすぐ戦争が起こるそうですが本当ですか?」 「ええ、このメティエ国とバールゲルト国との間で、もうすぐ戦争が起こりそうなのです」 「この神殿は大丈夫ですか?」 「そう思いたいですね、確かなことは何も言えませんが」  こうして神殿では戦争が起こるという情報しか得られなかった、だから今度は商業ギルドに行ってみる気でいた。アクアがだんだん不安そうな顔になっていくから、俺はいざとなれば俺もレンもリッシュもいると言って、不安そうなアクアを元気づけた。アクアは俺の手をしっかり握って、にっこりと笑って頷いていた。 「食料は足りてるか!!」 「はい、順調に届いています!!」 「きっとポーションがもっといるぞ!?」 「薬師の連中に今作らせてる!!」 「包帯や薬はどうだ!?」 「まだまだ足りないぞ!!」  俺たちが行った商業ギルドはもう戦争が起こっているようだった、いつも以上に多くの人間が働いていたし、ひっきりなしに物資が運びこまれていた。とても本当に戦争が起こるんですか、なんて聞けそうな雰囲気ではなかった。商業ギルドの掲示板も賑やかで、商隊が護衛を指名する依頼が沢山出ていた。戦争で物資が必要だったから、商隊だけは動いているようだった。俺たちはレンやリッシュと合流することにした、向こうの方が詳しい情報を貰えたかもしれなかった。 「レン、リッシュ。こっちは神殿で戦争になるって情報しか貰えなかった」 「商業ギルドの人たち、すっごい迫力で何も聞けなかったの」 「おうシエル、チビ。こっちは詳しいことが聞けたぜ」 「この戦争は二つの国の境界で、金の鉱脈が見つかったのが始まりだそうです」  メティエ国とバールゲルト国の境界には元々鉱山があった、それぞれ勝手に自分の領地を掘り進めて鉱石を得ていたが、ある日金の鉱脈を両側から見つけてしまった。当然、どちらの国も自分たちの物だと譲らなかった、そうして何度も話し合いの場が設けられた。しかし二つの国が納得できる答えを出せず、結局は戦争をすることになった。 「へぇ、それでどっちが勝ちそうなんだ」 「きっとどちらも自分たちが勝つって言うの」 「はははっ、チビの言う通りだ」 「ただ集めている軍は、こちらのメティエ国の方が多いそうです」 「あとは上級魔法の使い手がどのくらいいるかだな」 「本当に戦争になったら、上級魔法は爆弾みたいなものなの」 「まぁ、チビの知ってる本物の爆弾ほどじゃねぇが、何百人かは殺せるからな」 「上級魔法の使い手の数、それは国家機密ですからね」 「それでどうする? こちらが勝ちそうならしばらく見物してみるか?」 「アクアは戦争って嫌なの、だからあんまり見たくないの」 「そうか、チビの願いを叶えてやりてぇんだがな」 「今はもうこの街に入った者は商人以外、情報漏洩を防ぐために出れないそうです」  俺たちはもう戦争に巻き込まれていた、これじゃあしばらくはこの街で大人しくしている、それしかなさそうだった。戦争が嫌いなアクアがしょんぱりしていたから、俺はアクアの頭を何度も撫でて慰めた。そしてたとえ戦争が起こって何が遭っても、俺はアクアだけは守ってみせると思っていた。レンとリッシュはもう大人だったから、それぞれ自分の身を守ることができた。  俺はせっかくだからと図書館に通って戦争が終わるのを待った、アクアも俺についてきて絵本や魔法書を読んでいた。レンは酒場で情報を集めながら酒を楽しんでいた、リッシュは真面目だから冒険者ギルドへ通いながら情報を集めていた。そうしていよいよ戦争が始まった、でも俺たちは平民だからその戦争を直接見ることはできなかった。ただ街を歩く人の中にガラの悪い傭兵が増えた、そんなある日のことだった。 「はっ、ガキが!? 俺たちに意見すんじゃねぇ!!」 「俺様はただ酒を飲むんなら、金をちゃんと払えって言ってるだけだ!!」 「俺たちはこの街を守る傭兵だぞ!!」 「だからって酒場で代金を踏み倒していい理由にはならねぇ!!」 「上等だ、俺たちと決闘しな!!」 「ああ!? ったく面倒くせぇがやってやる!!」  俺とアクアが宿屋に帰ってくると、レンが傭兵たちと揉め事を起こしていた。俺が店の人に素早く話を聞くと、態度の悪い傭兵たちが散々飲み食いしたのに、その代金は領主さまに貰えと言ってきたそうだ。誰が聞いてもそれは無茶苦茶な話だった、確かに彼らは領主さまが雇っている傭兵かもしれなかった。だがこうやって散々何か飲み食いをしたなら、その代金を他に押し付けて踏み倒していいわけがなかった。 「面倒くせぇから、もう全員でかかってこいよ」  そうレンは大通りに出てから言った、レンの剣の腕前は前とは比べ物にならない、それくらい強くなっていた。それに盗賊退治で一対多数の戦闘にも慣れていた、傭兵たちは酒に酔ったふらつく足でふざけんじゃねぇとか、くそガキがとか言いながらレンに向かって剣を振り下ろした。俺は店主を見つけていざとなったら、どちらが悪かったか証言してくださいと頼んでおいた。 「何だよ、これなら盗賊の方がまだ強いぜ」  レンは剣を抜こうともしていなかった、そうしてレンを襲った傭兵たちは素手で、レンから叩きのめされた。まぁ時にはレンの足で蹴り飛ばされている者もいた、十人くらいの傭兵がいたがレンに敵うわけがなかった。傭兵たちは酒で酔っぱらっていたが、レンはこのくらいの酒では酔わなかった。だから余裕をもって一人ずつ、傭兵たちを殴ったり蹴り飛ばして気絶させていった。 「俺様は自分の剣も抜いてないぜ、そっちの傭兵たちは剣を抜いて、俺様に斬りかかってきたけどな」  やがて街の役人が騒ぎを聞いて駆け付けた、そうして店主などから状況を聞いていた。レンに悪いところはなかったし、彼は剣も抜いてなかった。逆に傭兵たちは食事や酒の代金を踏み倒そうとしていたし、それぞれが剣を抜いてレンに向かって複数で襲い掛かった。レンは襲われそうになった被害者だと認められた、それから道端に転がっている傭兵たちは領主さまの軍に捕まっていた。 「はん、口ほどにもない男どもだねぇ」
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