第一話 質問コーナー

3/4
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 そんな人気者の渉くんと冴えない俺が、一体どうしてカップルチャンネルなんてものを運営することになったのか。  経緯(いきさつ)はこうだ。  渉くんは昔から女性よりも男性を好きになる性質で、それをうっかり彼のグループメンバーが生配信中に口を滑らせてしまった。けれど後日、彼は自ら自分の性的指向について説明する動画をアップロードし、さらには付き合っている彼氏がいることも公表したのだ。  自分の気持ちを堂々と表明し、自分らしく生きていたいと笑顔でうったえたその動画は多くの人々の共感を呼び、渉くんは一躍話題の人となった。  けれど彼の目的が、人々からの共感を得ることになかったことは明らかだ。  俺も見ていたが、生配信中に口を滑らせたグループメンバーは、その直後、ほかのメンバーと一緒に必死になってごまかしていた。ワタちゃんは別に本当に男が好きなわけじゃないです、ほら、よくある女性へ向けてのファンサービス的なやつです、という具合に。  渉くんにとっては自分の本来のすがたを冗談として流されるのが堪らなかった。結果、説明の動画をアップロードするに至ったというわけだ。 「…………」  編集作業を少し休憩しようと、コーヒーを淹れにキッチンへ立つ。  俺の住むワンルームには、少しずつ渉くん専用の物が増えてきていた。ラックに立てかけてある黄色いマグカップなんかもそうだ。  来客用のマグカップなんて持っていなかった俺は、彼の数度目の訪問の時、近くの雑貨屋で見繕ってきた。彼はとても気に入ってくれて、それ以来、一緒に飲もうと、お気に入りだというドリップコーヒーをお土産として買ってきてくれる。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!