第二話 旅行企画

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第二話 旅行企画

「さて、今日は皆さんお待ちかね、旅行企画です!」 「わー! ……って一番待ちかねてたのはハラっちでしょ」 「バレたか」 「楽しみすぎて昨日眠れなかったって言ってたもんねぇ。ハラっち、小学生みたいでかわいいー!」 「もー、やめてよワタちゃん」  俺の脇腹を小突いてくる渉くんの手を押し返す。  眠れなかった、は大げさだが、楽しみにしていたのは間違いではない。 「さてさて、ハラっち、今僕たちがいるのは?」 「本滝(もとだき)温泉街です」 「温泉ー!!」 「都内からもアクセスしやすくて、日帰り旅行にもぴったりだよね。でもせっかくなので今日はワタちゃんと一緒に泊まっていきたいと思います」 「やったぁ! ……あっ、ちなみにここまでの道のりは、ハラっちが車を運転してくれました。かっこよかったね、ハラっち」 「……ん」 「照れてるー! みなさん見ました? ハラっちが照れました」 「もー、行くよワタちゃん」 「はぁい」  俺たちはカメラを回しながら、風情ある温泉街を歩いた。  こういうロケ企画の時は、基本的に俺が撮影係となっている。身長が百七十七センチの俺に対して、渉くんは百六十二センチ。カメラを俺の目線に合わせると、彼がこちらをぐっと見上げるかたちになるのでとても可愛い。と、彼のファンには好評である。  それに俺はもともと顔を出さずに活動を行っていたので、まだあまりカメラに映ることに慣れていない。その点渉くんはプロなので、自分の魅せ方をよくわかっているのだ。 「ハラっち、あれ食べたい!」  メインストリートたる商店街を歩いていると、渉くんがホカホカと蒸気のたつ店先を指さした。蒸気の中には人だかりができている。本滝名物、温泉饅頭の店だ。  俺たちはそれぞれ温泉饅頭を購入した。寒い時期なので、饅頭のあたたかさがじんわりと身体に染みてうれしい。 「うまーっ!」  本当に美味そうに饅頭をほおばる渉くんの顔にカメラを向けると、彼は満面の笑みをこちらへ返した。 「めちゃくちゃ美味しいよ。ほかほかのほわほわのふわふわで」 「言いたいことはわかる」 「でしょっ?」  彼はほかほかでほわほわの饅頭のごとく微笑んだ。可愛い。……と、ファンに好評な彼の微笑みである。
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