第一話 質問コーナー

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第一話 質問コーナー

「はいっ、どうも、『はらわたちゃんねる』の『ハラ』と」 「『ワタ』です!」 「ワタちゃん、今日はついにあの企画をやるそうですが」 「ついについに。僕たちもやっちゃいます?」 「やりましょう。質問コーナー!」  ソファの上、ぴったり身を寄せ合って、俺たちはワッとはじけるように拍手をした。  目の前のテーブルに置かれたPCを二人一緒にのぞき込み、視聴者からSNSに寄せられた質問をピックアップしていく。 「じゃあ最初。『お二人の好きな食べ物は?』」 「ええっ、ハラっち、初っ端それでいいの!?」 「初っ端だからこれでいいの。ええっと、好きな食べ物。ワタちゃんは辛い物好きだよね。――この前一緒に中華行ったら激辛担々麺頼んでてさ。俺なんて匂いかいだだけで涙が出るレベルだったのに、平然と完食してんの」 「すごく美味しかったよ。そうだハラっち、今度激辛企画やりましょう」 「やりません。ハイ次。――『お二人の好きな色は?』」 「楽しい!? それ聞いて楽しいかな!? みんなが聞きたいのはそういうことじゃないよね。ほらこれ。『ぶっちゃけ、どっちから告白したんですか?』」  ワタちゃんこと(わたる)くんが、口角を上げて俺の顔をのぞき込んでくる。 「これは俺」 「そうそう。高校のころ、ハラっちが僕を呼び出して屋上で告白してくれたの。あの時はすごく緊張してたね」 「そりゃ緊張するよ。だってワタちゃん可愛いし、人気者だし、俺なんか眼中にないと思ってたから」 「もぉー。ハラっちすぐそういうこと言う! 僕の方がずっとずっと前からハラっちのこと好きだったんですからね!」  渉くんの言葉は偽物。けれど俺の言葉は半分本心。 「次! 『お二人の初デートは』――」  その後も二人でワイワイと盛り上がりながら、寄せられた質問に答えていった。  ――この質問の回答には台本がある。  正確には、俺たち二人の歩んできた軌跡そのものが台本によって形作られている。  俺と渉くんが高校のころからの同級生だったのは本当。けれど屋上に呼び出して告白したのは嘘。初デートも、初キスも、初夜も、嘘。  カップル配信者を謳っていながら、俺たちは交際関係にない。  辻褄を合わせるため、二人で台本を作り上げたのだ。俺たちがなかなか質問コーナーに踏み出せなかった理由である。 「次が最後の質問かな! せっかくだし際どい質問でもいいよ」 「うーん。じゃあこれ。『どのくらいの頻度でえっちしてるんですか?』 どうです? ワタちゃん」 「あははっ。うーん。そうだねぇ。『週九』かな」 「…………」 「ってことで、僕たち初めての質問コーナーでした!」 「また別の動画でお会いしましょう!」 「またねー。チャンネル登録、高評価もよろしくねー!」
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