36500日前の夜(序章)

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36500日前の夜(序章)

「連絡は、まだか――」  すでに長い夜を迎え、厚い雲に覆われ星1つ見えない空の下。  一番近い魔法都市からも距離をおいた、海上に浮かぶ島がある。  特殊な魔法鉱物でできた、一見要塞のような(おもむき)のある、オブシディアン魔法学校で、人知れず事件が起きていた。 「――残念ながら、まだ……」  その中心部ともいえる4階にある校長室に集まった男女、計7人の教師たち。  目を伏せ暗い顔で静まりかえる教師たちと、連絡を待つしか叶わない、わしは痺れを切らす。 「なぜ、もっと早く動かなかったのか――」  思わず胸元まで伸びた白い髭に触れて、抑えられない衝動を下の者にぶつけてしまった。  オブシディアンの校長になって早20年。今年で齢60を迎える。  そんな矢先のことだった。  ――初めから、わしが探しにいくべきだったのかもしれない。  その直ぐあと。耳に届く風を切るには少し重い足音と、沈黙を破るように開け放たれたドアから、荒い息遣いで現れた男性教師の腕には、中等部の少女が抱かれていた。  血の気のない青白い肌が人形のように映る姿に、わしを含めた教師全員が息を飲む。 「ハァ、ハァ……逃げろと言って、別の教師に託された生徒ですが……既に、亡くなっています――」
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