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化かしあい
「わたし、本当は狐なの」
言ってしまった。
ずっと隠していたけれど、大好きな彼に隠し続けることなんてできなかった。
化けていた人間の姿から元の姿に戻る。
「これが本来のわたしよ」
見上げた彼の顔は驚きに満ちていた。それはそうだ。だって、付き合っていた彼女が狐だったなんて思いもしなかっただろう。
彼と初めて会ったのは、狐の姿の時だった。怪我をしたわたしを助けてくれたのだ。
傷が治って彼とはお別れをしたが、どうしても彼のことを忘れられなかった。だから、頑張って人間に変化して、彼の元に会いに行ったのだ。
あの時助けてくれてありがとうと告げたい。初めはただそれだけだった。でも、わたしは彼と一緒にいることを望んでしまった。ずっとずっと隠し続けてきたけれど、わたしはもう彼に嘘をつき続けるのが苦しくなってしまったのだ。
彼の反応が怖くて、顔を俯ける。尻尾が力なく垂れた。
「僕も……」
彼が言葉を発する。彼の顔を見ようと顔を上げる。すると、彼が突然消えた。
……いや、消えたんじゃない。
ぴんと尖った耳にふさふさの尻尾。わたしの目の前にいるのは、何処からどう見ても狐だった。
何が起きたのかわからなくて目を白黒させていると、その狐が口を開いた。
「僕も狐なんだ。怖くてずっと言えなかった。君と同じ」
狐がーー彼が近づいてくる。わたしと額を合わせて、彼は言う。
「人間の姿であろうと、狐の姿であろうと、僕は君のことが好きだ」
その一言にわたしは涙を流した。そして、わたしと同じだけれどわたしよりもたくましいその体にそっと顔を埋めるのだった。
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