水族館デート

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水族館デート

 ガラスの向こうには、たくさんの魚たちが気持ちよさそうに泳いでいる。 館内は少し暗く、より一層、海の中にいるような気分を味わえる。 「癒される……」  私は、優雅に泳ぐ魚を目で追いながらつぶやいた__。           ☆  深海(ふかみ) 花奈(かな)23歳。 春から社会人として働き始めて、約半年が過ぎようとしていた。 今日は仕事が休みのため、ストレス解消も兼ねて水族館に魚を見に来たのだった。  平日の水族館は人もまばらだ。 館内をゆっくり観察出来るのがいい。  (次はペンギンを見に行こう!)  そう思いながら歩き出そうとした時、すぐ隣に人がいるのを避けられなかった。 「すみません! 怪我はないですか?」  私は、慌ててその相手に謝る。 そして、ふと相手の顔を見た時、私の思考が一旦止まった。 (この人、俳優の中崎(なかさき) (そう)? えっ?!)  目の前に、いつもテレビで見ている芸能人がいる。 それも、彼は私の推し俳優なのだ。 惣から目が離せなくなっていると、後ろで高校生くらいの女の子たちの騒がしい声が聞こえてくる。 「ねえ、あれ俳優の中崎 惣じゃない?」 「ウソぉ! どうする? 話しかけてみる?」  その会話を聞いて、私は自分のことのように焦ってしまう。  (見つかったら面倒なことになるよ。どうしよう)  私があれこれ考えていると、ぐっと肩を引き寄せられた。  (えっ!!!)  咄嗟に惣を見ると、惣はしーっと自分の口に指を置いた。 「ごめん。少し恋人のふりしてくれるかな? 名前教えてもらってもいい?」  耳元でささやかれ、私は緊張で身体がこわばってしまう。 「花奈です」  震える声でつぶやくと、惣は微笑み、私の身体をさらに強く抱きしめたのだった__。
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