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惣は私を抱きしめながら、女の子たちに聞こえるように会話を始めた。
「会いたかったよ。一ヶ月ぶりじゃない?
花奈に会いたくて、俺 1時間も前に水族館に着いちゃった」
まるでドラマのワンシーンを見ているような気持ちになってしまう。
そんな私を見て、惣がまたささやいた。
「俺に合わせて。何でもいいから」
私は、はっと我に返ってうなづいた。
「う、うん。えっと、私も会いたかったよ。来てくれてありがとう」
緊張で、棒読みのようになってしまう私を、惣は面白そうに上から見下ろす。
そんな私たちを見て、女の子たちは興味を失ったように話し出した。
「あれやっぱり人違いじゃない?」
「なーんだ。つまんない。他行こう」
やっと女の子たちがその場を去り、惣は抱きしめていた私を解放した。
私は緊張が解けて、思わずその場に座り込んでしまった。
(これは夢? いや、むしろ夢ならありがとう。推しに抱きしめられるなんて……)
しかし、床に座り込み、落ち着こうとしている私の頭上から推しの声がする。
「大丈夫か? 立てる?」
スッと、綺麗な手が私の前に差し出された。
私は恐る恐る顔を上げる。
そこにはやはり、優しい目で微笑む推しの姿があったのだった__。
☆
「はい、これ」
惣が売店で買ったウーロン茶を私に差し出した。
あれから私は、惣に連れられ売店の前のベンチで休憩をしていた。
私はウーロン茶を受け取り、改めて惣を見る。
さっぱりとした短髪の黒髪に、優しそうなクリクリとした目。
スッと通った鼻筋が可愛らしい顔を少しシャープにしている。
(ダメだ、直視出来ない……)
私が惣から視線を逸らすと、惣は自分のウーロン茶を飲みながら私に話しかけてきた。
「さっきは恋人のふりをしてくれてありがとう。助かったよ」
「いえ、あの女の子たちにバレなくてよかったですね」
「1人でこういうとこ来るの初めてでさ。やっぱり難しいな」
惣は苦笑いしながら私を見る。
推しの笑顔の破壊力に耐えながら、私は思い切って惣に尋ねた。
「今日は1人なんですか?」
私の質問に惣はうなづく。
そして、実は……、と話し出したのだった__。
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