水族館デート

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「俺さ、昨日ドラマの撮影で失敗しちゃって。彼女と水族館でデートするシーンなんだけど、そんなデートしたことないから、急に演技が出来なくなっちゃったんだ」  私はその話を聞いて思い出す。 「あ! もしかして、『王子様探偵』ですか? 大好きで毎週見てます」  私の食いつき具合に、惣は微笑みながらうなづいて、また話を続けた。 「それで、水族館に1人で来てみたんだけど、1人で見てもいまいちわからなくてさ」 「そうなんですね」  その時、惣は何かを閃いたような顔をし、私の顔を覗き込んだ。 「そうだ。もう少し俺の恋人にならない?」 「へっ?!」  急にそんなことを言われて変な声が出てしまう。 驚いている私に、惣は手を合わせた。 「お願い! ドラマのために! ねっ?」  そして、座っている私を引っ張って立たせると、私の手を握って目を見つめる。 「行こう、花奈!」  惣はそう言うと、私と手を繋いで歩き出した__。           ☆  ペンギンたちが、ちょこちょこと可愛らしく歩いている。 私のリクエストで、私と惣はペンギンのいるスペースに来ていた。 私は、ペンギンたちを笑顔で楽しそうに見ている惣を横目に見る。 そして、視線を下に下げると相変わらず手は繋がれたままだ。  (もう何が何だかわからなくなってきた。こうなったら私も……)  毎週楽しみに見ているドラマのため、という思いもあり、私は一日だけの仮の恋人になりきることにした。 そして、繋いだ手を少し強く握り返してみる。 ペンギンたちに釘付けになっていた惣は、私の態度に気づくと、こちらを振り向き意地悪な笑顔をした。 「どうした? ペンギンにヤキモチ妬いちゃった?」 「うん……」 「あ、花奈ずるい。可愛すぎて好きになっちゃう」  笑い合う私たちは本物の恋人に見えているだろうか。 そんな思いを抱きながら、私はその後も惣と一緒に水族館デートを楽しんだのだった__。
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