3人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺さ、昨日ドラマの撮影で失敗しちゃって。彼女と水族館でデートするシーンなんだけど、そんなデートしたことないから、急に演技が出来なくなっちゃったんだ」
私はその話を聞いて思い出す。
「あ! もしかして、『王子様探偵』ですか?
大好きで毎週見てます」
私の食いつき具合に、惣は微笑みながらうなづいて、また話を続けた。
「それで、水族館に1人で来てみたんだけど、1人で見てもいまいちわからなくてさ」
「そうなんですね」
その時、惣は何かを閃いたような顔をし、私の顔を覗き込んだ。
「そうだ。もう少し俺の恋人にならない?」
「へっ?!」
急にそんなことを言われて変な声が出てしまう。
驚いている私に、惣は手を合わせた。
「お願い! ドラマのために! ねっ?」
そして、座っている私を引っ張って立たせると、私の手を握って目を見つめる。
「行こう、花奈!」
惣はそう言うと、私と手を繋いで歩き出した__。
☆
ペンギンたちが、ちょこちょこと可愛らしく歩いている。
私のリクエストで、私と惣はペンギンのいるスペースに来ていた。
私は、ペンギンたちを笑顔で楽しそうに見ている惣を横目に見る。
そして、視線を下に下げると相変わらず手は繋がれたままだ。
(もう何が何だかわからなくなってきた。こうなったら私も……)
毎週楽しみに見ているドラマのため、という思いもあり、私は一日だけの仮の恋人になりきることにした。
そして、繋いだ手を少し強く握り返してみる。
ペンギンたちに釘付けになっていた惣は、私の態度に気づくと、こちらを振り向き意地悪な笑顔をした。
「どうした? ペンギンにヤキモチ妬いちゃった?」
「うん……」
「あ、花奈ずるい。可愛すぎて好きになっちゃう」
笑い合う私たちは本物の恋人に見えているだろうか。
そんな思いを抱きながら、私はその後も惣と一緒に水族館デートを楽しんだのだった__。
最初のコメントを投稿しよう!